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【 国東半島の奇祭「修正鬼会」 】 鬼の祭りに現れるよい鬼の正体とは?

【 国東半島の奇祭「修正鬼会」 】 鬼の祭りに現れるよい鬼の正体とは?

「鬼」は頭に二本の角をはやし、口が大きく裂けた凶悪な大男。全国には恐ろしい「鬼」の伝説がたくさんあります。そんな中で、お正月に現れて、里の民に幸せをもたらし、神さまとして祀られる「よい鬼」がいます。今回はそんな不思議な「鬼」の正体を探ります。

国東、長岩屋の里にて

国東の奇祭、修正鬼会の「鬼」は里の民のご先祖さま!?

大分県の国東(くにさき)半島の付け根、豊後高田市の山間に長岩屋の里があります。この里の「天念寺」は、毎年、旧正月7日の夜に行われる「修正鬼会(しゅじょうおにえ)」で有名です。神仏習合の里といわれる国東に伝わる修正鬼会は、鬼の姿をしたご先祖を迎え、豊作と健康を祈る奇祭。千数百年の歴史をもち、かつては国東の65の寺で行われたとされ、国の重要無形民俗文化財になっています。

今年の天念寺の修正鬼会は2月3日に開催されます。

旧正月7日、夜の20時頃に、若者たちが燃え上がる大松明(たいまつ)を振りまわして火の粉を散らし、行事は始まります。講堂では僧侶の法舞などが行われ、やがて、22時頃に赤鬼が現れます。赤鬼は松明をもって講堂を暴れ回り、続いて黒鬼も現れ、里の民は鬼たちに松明で背や尻を叩かれ、豊作と健康を祈ります。見物客も参加して祭りはクライマックスへ、堂内には煙と火の粉が飛び交います。

ふつう、鬼は不吉な悪鬼ですが、ここの鬼は幸せをもたらすよい鬼。民俗学では、正月に祝福を携(たずさ)えて訪れる「祖霊」であり、国東の基層信仰とされます。

国東の西、福岡県豊前市の霊山、求菩提(くぼて)山には、鬼神を祀る「鬼神社」があります。求菩提の民話では、鬼神は里の民のために石段や井堰をつくります。ここの鬼もよい鬼。青森県弘前市などにも鬼神を祀る「鬼神社」があります。弘前の鬼もよい鬼、干ばつに苦しむ里の民のために灌漑(かんがい)を行います。

天念寺の講堂。隣には「鬼会の里、歴史資料館」があり、修正鬼会の様子がビデオ上映されています。

「鬼神社が鎮座する豊前・求菩提山中宮」

幸せをもたらすよい「鬼」とは?二本の角をもつ製鉄、鍛冶の神

岡山に伝わる「温羅(うら)」の伝承では、古代、吉備の王であった温羅は「鬼」であり、中央から派遣された吉備津彦命(きびつひこのみこと)に退治されました。そして、温羅の話は桃太郎伝承のモチーフになったそうです。温羅は吉備の古い先祖神で、百済(くだら)の王子であったとされています。吉備に製鉄技術をもちこみ、繁栄をもたらしますが、繁栄を妬んだ中央王権に討たれたといわれます。

その温羅の霊は「吉備津神社(岡山県岡山市)」の東北の隅に「艮御神(うしとらみがみ)」として祀られました。艮(うしとら)とは、鬼が牛の角と虎の牙をもつことで、丑と寅の方角である鬼門のこと。また、鬼の姿をした艮御神は「牛頭天王(ごずてんのう)」とも言われています。牛頭天王は、やはり、牛の角をもつ牛頭人身の姿で、のちの祇園信仰に関わります。祇園信仰の発祥、京都の「八坂神社」に牛頭天王を祀ったのは、大陸からの渡来人である八坂造とされています。

「漢代の石刻画に描かれた蚩尤(しゆう)」

そして、角をもつ神といえば、中国神話の神「蚩尤(しゆう)」。牛頭人身の神で、兵器の神(兵主神)とされています。角をもつ神は、新羅の牛頭山、曽尸毛犁(そしもり)で牛頭天王と習合、列島へと渡ります。

どうやら「鬼」とされる二本の角をもつ神とは、兵器を製造した鍛冶の神、「蚩尤(しゆう)」であったようです。牛頭天王の原初であり、製鉄、鍛冶に関わる民が祀る神とされます。また、二本の角をもつ「牛冠」を被る産鉄民の伝承さえ残ります。

「鬼の信仰を秘める国東半島の山々」

国東には金屋温泉で知られる「金屋」など、製鉄に関連する地名や鉱山の痕跡が散在します。国東の基層にみられる「鬼」の信仰とは、製鉄、鍛冶に関わる渡来の氏族によるもの。そして、古代の灌漑、土木には、鉄器を駆使する民が関係したとされます。

大和王権が勢力を広げる過程で、王権に従わない渡来人は、忌避されて「鬼」ともされたものでしょうか。そして、民の暮らしの中に生きる「鬼」は大らかで、どこか楽しげ。不吉な存在とされた「鬼」を、幸せをもたらす先祖神として祀る民のパワーに、喝采の拍手をおくりたいものです。

(あらき獏)

画像参照元:
豊後高田市HP

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