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東京のお寺に秘蔵される「服部半蔵の槍」を見学してきた【哲舟の歴史よもやま取材ルポ その4】

東京近辺にお住まいの方なら、東京メトロ半蔵門線や半蔵門の駅を利用されたこと、一度ぐらいはあるだろう。パープルのラインカラーが目印の半蔵門と半蔵門線の名前は、すなわち服部半蔵(はっとり はんぞう)の屋敷が近くにあったことに由来する江戸城の門の一つ、「半蔵門」から来ている。

服部半蔵といえば、即座に「忍者」を想い受かべる人が多いはず。「忍者ハットリ君」という漫画まであるぐらいだから、その知名度は全国区。最も有名な忍者といっても良い。

ただし、実は「半蔵」は個人名ではなく代々の当主が名乗ったもの。半蔵は5人いたが、忍者だったのは初代・服部保長(やすなが)のみ。徳川家康の家臣として有名な2代目・正成(まさしげ)は忍者ではなく武士。忍術ではなく「槍の名手」として出世した戦国武将なのである。

その服部半蔵が愛用していた槍が、東京は四ツ谷のお寺に残されているので紹介したい。ただし、いきなり目的地に行ってはつまらないので、出発は半蔵門。炎天下を物ともせず、まず江戸城のお堀端にある半蔵門を訪ねてみた。

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ここは江戸城の西門にあたる場所で、この奥がちょうど皇居、つまり天皇陛下のお住まいだ。天皇陛下は、出入りの際は主にこの半蔵門を利用される。よって一般人は通行できない。皇居警察が堅くガードしていて、門の前までは近づけないようになっているのだ。ちなみに、江戸時代は半蔵の部下、伊賀同心(いがどうしん)たちが警護していた。半蔵本人ではなく、この伊賀同心こそが忍者だったのだ。今も江戸時代さながらの警護といえる。

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こちらは明治時代に撮影された写真だが、当時の門は東京大空襲の時に焼けてしまった。しかし、佇まいは当時のまま。この半蔵門から西を見ると、まっすぐに伸びている道がある。これが甲州街道(新宿通り)、つまり四ツ谷・新宿を通って甲州(山梨)方面へ通じる道路だ。五街道(東海道、中仙道、甲州街道、奥州街道、日光街道)の中で、江戸城の門と唯一、直接つながっていた道でもある。

それだけに重要であり、家康が門を伊賀同心に警護させたのも理解できる。伊賀同心のみならず、沿道には大久保の百人衆、八王子の千人衆といった鉄砲隊も配備されていた。一種の軍用道路だったのである。さて、前置きはこのぐらいにして、甲州街道を西へ向かおう。目的地の四ツ谷までは歩いて10~15分ぐらいだ。

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まっすぐ歩けばすぐに着いてしまうので、ちょっと寄り道していこう。麹町四丁目の交差点を過ぎたら、左へ曲がると紀尾井町だ。ホテルニューオータニと向かい会う形で清水谷公園がある。ここはその昔、服部半蔵の屋敷が建っていた場所。今はまったく面影がないが、亀が日向ぼっこをしていたりして、のどかな公園である。

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その代わりというべきか、明治11年「紀尾井坂の変」で暗殺された薩摩の偉人・大久保利通の哀悼碑が建つ。碑の前で足を止め、冥福を祈ってから新宿通りへ戻るとしよう。上智大学の前を通って行けば四ツ谷駅はもうすぐだ。

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四ツ谷駅を通過して、駅の西側にある若葉二丁目の住宅街へ入る。閑静な住宅街を10分ほど歩いたところに「西念寺」(さいねんじ)がある。この寺は徳川家康が江戸に入って間もない1594年(文禄3年)、服部半蔵が創建した寺だ。

半蔵がこの寺を建てたのは、非業の死を遂げた主君・家康の息子、信康の霊を祀るため。切腹した信康の介錯人を命じられたのが半蔵だった。それ以来、半蔵は彼の死を悼み、出家して西念と号していた。それが寺の名前の由来にもなっている。実は創建当初は、半蔵の屋敷があった先ほどの清水谷に建てられたが、1634年(寛永11年)、この場所へ移されて今に至る。

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本堂の中に、その槍はあった。住職の話では、これは徳川家康から贈られた槍だという。ズッシリとした重みがあって、子供や非力な女性には一人で持つことができないほどだ。まさに「槍の半蔵」の異名をとった半蔵ならではの槍といえる。

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近づいてみると、槍の刃先の一部が残っていることが分かるだろう。先端30cm、矢尻150cmが戦災で損壊してしまっているが、貴重な歴史遺産であり、新宿区の登録文化財である。槍そのものよりも、「服部半蔵が愛用した」という価値こそが重要といえる。

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境内には1596年(文禄4年)、55歳で逝去した半蔵の墓、そして徳川信康の墓もある。静かに手を合わせ、寺を後にした。「槍を見に行くなら、わざわざ半蔵門から歩かなくても四ツ谷から行けばいいんじゃない?」との声も聞こえてきそうだが、そういう野暮は言いっこなし。

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文章だけでは分かりにくいと思うので、今回歩いたルートをマップで記しておこう。散策のご参考になれば幸いだ。暑い盛りの半蔵散策を終え、近所にある有名店、たい焼き「わかば」のかき氷が、キーンと身に沁みてうまかった。

※西念寺 東京都新宿区若葉2-9
見学の際は、必ず事前に許可を得ましょう。

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