青島(チンタオ)の市街地から車で40~50分ばかり東へ行ったところに、労山(ラオシャン=現地表記では嶗山)という地がある。
日本人にはあまり知られていないが、総面積は446平方㎞、標高千メートルクラスの小高い山々が連なる名勝で、中国の国内はもちろん外国人の観光客も多数が訪れる。ここは中国らしからぬというか、ゴミひとつ落ちていないきれいな所である。
労山は古くから道教が根付いた場所として名高い。中でも、漢武帝の時代(西歴140年ごろ)に造られたという労山最古の道教道場が「太清宮」だ。
広大な道場を歩いていると、ちょっとした舞台があり、道士たちが武術の演武を行っている光景に出くわした。扮装が見慣れないため、つい観光地のショー的なものなのかと思ってしまったが、歴史ある伝統的武術のようだ。若い道士から老師のような人、また女性の道士たちの姿もあった。
そこから少し歩いた空き地では、ひとりの道士が子供たちに熱心に武術の型を指導していた。まるでカンフー映画の中にいる気分だ。日本でもよく知られている拳法のひとつ、カマキリの動きを模した蟷螂拳(とうろうけん)などは、中国の山東省が発祥地であるという。
太清宮の中には大小さまざまな建物があり、その中にはたくさんの神様が祀られている。そのうちのひとつが「関岳祠」。
文字通り三国志の英雄・関羽(右)と、宋の時代の武人・岳飛(がくひ=左)を祀る廟所である。関羽を祀る「関帝廟」は中国各地にあるほか日本の中華街でもおなじみだし、杭州には岳飛を祀る廟もあるが、揃って祀られた廟は珍しい。
中国での岳飛人気は非常に高く、異民族(金国)と果敢に戦った救国の英雄として知らない人はいないほど。対して関羽は古代・三国志の時代に活躍したことで知られる武神であり、昔から商売繁盛の神様に祭り上げられ、特に武道を習う人や商売をする人に崇敬されている。
いずれも「忠義」に篤い武人として尊敬されているが、その両英雄が並んで祀られている贅沢さから、終始参拝客が絶えない。中国史が好きな日本人にとっても時間をかけて拝みたくなる名所だ。
労山にこうした神々が祀られているのは、古くから「神水泉」という名水が湧き出す聖地であることとも関係が深い。その名水からミネラルウォーターやビールが造られているのだ。ビールは「労山ビール」として青島市街地では広く流通している。(写真は青島市街で食べた魚料理と労山ビール)
さて、ビールの話題になったところで青島市街地へと話を戻し、青島ビール工場のことを少し紹介しよう。
日本でも知らない人がいないほど有名な青島ビールの製造元は青島啤酒股份有限公司といい、その工場にはビール博物館が併設されて、ちょっとした観光名所になっている。
日本の中華料理店はもちろんのこと、広大な中国大陸のどこの料理店へ行っても、このビールは置いてある。それほどまでにポピュラーな存在だ。入場料金は50元(1000円ぐらい)。日本のビール工場と同じく製造工程や工場の歴史を見学できたり、造りたてのビールが飲めたりする。
青島が20世紀のはじめ、ドイツ領であったことは前回に述べた通りだが、当時ドイツ人が本国と同じように、自分たちにとって欠かせない飲み物であるビールの製造工場を造ったのがはじまり。
その後、第一次世界大戦でドイツから青島を奪った日本に支配権が移り、20年ほどの間、この工場は「大日本麦酒」がビール製造を引き継いだ。ここでアサヒビールやキリンビールの製造も行なわれていた時期があったのだ。
1945年、太平洋戦争で日本が敗戦したことで、青島とともにビール工場も中国の手に戻った。ただ、現在も日本企業との合弁や提携などは続けられているそうで、日本で青島ビールが有名なのはそうした事情があるのだ。
先の労山ビールも青島ビール会社が製造を行なっている。世界50ヵ国以上で販売され、中国国内でも一番ポピュラーなビールはここで生み出されているのだ。(館内に展示されていた古いポスター。お土産に欲しい・・・)
出口のミュージアムレストランで味わった生青島。中国は飲食物の物価が安く、ビールも中瓶1本が5~6元(120円ぐらい)で飲めてしまう。筆者のような中国史とビール好き日本人にとって、青島はまさに楽園のようなところといえる。いずれ再訪してみたいものだ。
※青島ルポその1「中国の青島(チンタオ)で、三国志の珍オブジェを発見!」はこちら