武士の勇と知とを印刷物から紹介する「武士と印刷」展が開催
武士とは字の通り、戦う者。けれど同時に、為政者として知的な面も持っていました。
武と知、それぞれの面が特に強く表れているのが、当時の印刷物。
江戸時代の浮世絵では勇猛な武士の姿が大量に刷られた一方、当の武士が刷らせたのは地図や訳書など、知的なものが多くありました。対照的な印刷物を通して武士のふたつの面を紹介するのが、東京都文京区の印刷博物館で開催される企画展「武士と印刷」です。
この記事では本展での展示物の見どころと、そこからうかがえる武士の姿をご紹介します。
大猪を素手で投げる堀尾吉晴の勇名
「武士と印刷」展で展示される浮世絵は、歌川国芳のものを中心に約150点(展示替あり)。
そのうちのひとつが、戦国武将・堀尾吉晴を描いたものです。堀尾吉晴は、大きな猪との取っ組み合いの末に生け捕り、その武勇が気に入られて信長に取り立てられたと言われています。
こちらの浮世絵は、そのシーンを描いたもの。たくましい腕と、派手に転がった大猪とが、吉晴の強さを巧みに描いていますね。
「刷らせた」武士-藩主自らが翻訳した日本初のヨーロッパ地誌
一方、武士が編纂させた書物は約160点が展示。武勇を描いた浮世絵に対し、知の結晶と言うべきものです。
『泰西図説』とも呼ばれる『泰西輿地図説』は、ドイツ語の書籍をオランダ語訳したものを、さらに日本語訳して出版されました。ロンドンやパリなどの地図が描かれた、日本初のヨーロッパ地誌です。
元オランダ通詞の助力も得て、日抄訳したのは、福知山藩主・朽木昌綱。
昌綱は蘭癖大名ともいわれるほど蘭学研究に熱心で、他にも様々な蘭学書を残しています。
外国語とその学術書に精通していたからこそ実現した『泰西輿地図説』。知者としての武士の一面がよく伝わってきます。
「刷らせる」ことを支えた活版印刷
武士は書物をただ刷らせるだけでなく、技術も支えました。そのひとつが活字です。
印刷事業に特に熱心だった徳川家康は、10万個にも及ぶ銅製の活字を作らせます。現存する一部が、重要文化財にも指定されている駿河版銅活字です。
駿河版銅活字によって家康は、仏教や政治に関する漢籍を印刷させています。印刷物も現存。『大蔵一覧』は日本初の銅活字による印刷物としても、歴史的な価値を持っています。
「武士と印刷」展は2017年1月15日まで開催
印刷博物館の「武士と印刷」展は、平成28(2016)年10月22日(土)から翌年の1月15日(日)まで開催されます。
動と静、武と知。武士のふたつの面を印刷物から表すという類を見ない展示、どうぞお見逃しなく。
企画展示「武士と印刷」
会期:2016年10月22日(土)~2017年1月15日(日)
休館日:毎週月曜日
(ただし1月9日(月・祝)は開館。12月29日(木)~1月3日(火)、1月10日(火)は休館)
開館時間:10:00~18:00(入場は17:30まで)
会場:印刷博物館
詳しくはHPをご覧ください。
(Sati)
関連記事
【愛刀や新婚旅行の手紙も!】特別展覧会「没後150年 坂本龍馬」が京都国立博物館で開催
【進出の政宗直筆の絵画も】特別展「松島 瑞巌寺と伊達政宗」が開催中