来たる7月9日(火)から、東京・上野の東京国立博物館ではじまる、日中文化交流協定締結40周年記念 特別展「三国志」。「いざ、リアル三国志へ参らん」のフレーズ通り、絶大な人気を誇る「三国志」の世界をリアルに感じられる展覧会とあって「いまか、まだか」と、たくさんの人が開催を待ちわびておられるようだ。
そこで今回は、東京国立博物館の市元塁(いちもと るい)主任研究員に、特別展「三国志」(以下、「三国志展」と記す)の見どころや、開催を迎えるにあたっての心境などをうかがってきた。
――ちょうど10年ほど前の2008年から2009年、東京富士美術館をはじめ全国七会場を巡回した「大三国志展」が開催されました。あの展覧会もたいへんな話題を呼び、大好評でしたが、今回の「三国志展」と過去の「大三国志展」との違いは、どんな部分でしょうか?
「大三国志展」は、三国志に関係するありとあらゆる品を集結させた、大変意欲的で印象深い展示でした。ただ、当時は考古学的な成果も今ほど多くなかったため、「後漢(ごかん)から三国時代の実像に迫る」という点では、物足りない面もあったのではないかと思います。
今回の特別展「三国志」は、ここ10年内外の考古学的成果の紹介はもちろん、それによる過去の出土資料の再評価などを積極的にすすめ、三国志の時代の実像を、出土資料でたどっている点に特徴があります。「大三国志展」をご覧になられた方も、新鮮な気持ちで楽しんでいただけるものと確信しております。
――前売券の売れ行きも好調とうかがっています。特に「図録セット前売券」が発売当日に完売しましたが、想定通りでしたか?
いえいえ、まさか発売当日で完売するとは想定しておりませんでした。皆様の期待の高さがうかがえるとともに、図録セット前売券をご購入いただけなかった多くの方には申し訳ない気持ちです。図録は開幕前に書店でも販売される予定ですので、そちらもチェックしていただければと思います。
おかげさまで、多くの方が特別展「三国志」を楽しみにしてくださっていて、前評判は上々といったところです。でも皆様が本展に何を期待しているのか、何を見たいと思っているのかまではなかなか把握できていません。果たして今回の特別展が、皆様のご期待に応える内容となっているかは、今も心配しています。
――市元さんは「三国志展」の開催準備にあたって、約1年かけて中国での現地調査を行なったそうですが、現地での反応はいかがでしたか?
多かったのは「また三国志展をするんですか?」という反応でした。みなさん「大三国志展」のことを覚えておられたんです。中には10年前と同じ文物をならべて見せてくれたようなところもありました。ですから「いえ、10年前にはできなかった、新しい三国志展をやるんですよ」と各地で説得する必要がありました。そんな活動を通じて中国各地をまわるなかで感じたのは、やはり中国の人々も三国志に対して並々ならぬ愛情を抱いているということです。たとえば、曹操(そうそう)が献帝を擁立した許昌では「後漢の歴史は許で終わり、三国の歴史は許にはじまる」という言葉を耳にしました。
――そういう言葉を現地の方から聞くと、また感慨もひとしおでしょうね。
いかなる愛も時空を超えますね。もちろん国境も。三国志は日中の共通言語といえます。私が中国で出会った多くの人は、「なぜ日本人は三国志が好きなんだ」と不思議がられるのですが、そういう中国の人々にも三国志に愛着を持っている方がたくさんいます。私がつくづく思うのは、好きとかどうとか言うことに今の国の範囲は関係がないということです。
――そのように、苦労して集められた文物が約160件ほど展示されるそうですが、市元さんお勧めのアイテムと、その見どころを改めてお聞かせいただけますか。
まず、1つは「金製獣文帯金具」(きんせいじゅうもんおびかなぐ)ですね。これは工芸技術的にも素晴らしく、美術的にも素晴らしいものです。後漢時代の最高級品といえるでしょう。曹操は自身の葬儀を簡素にするよう遺言しましたが、もしも「手厚く葬れ」と遺言していたら、おそらくこのような品が副葬されていたでしょう。曹操の遺言で副葬を禁止した「金玉珍宝」とは、まさにこのような金粒細工をちりばめた宝飾品だからです。
もう1つは、息子・曹植の墓からの出土物です。曹植の墓は半世紀以上前に山東省東阿県で発見されていますが、そこから出土した罐(かん)という壺で、「薬廿(くすりにじゅう)」とスタンプされています。
――おお。これは、素晴らしい。最初に出品が発表された、曹操の墓から出土したものではなく、息子・曹植の墓から出たものですね!!
そうです。副葬専用の容器として作られたものに捺されているわけですから、延命長寿を願う仙薬を入れるための容器ではと推測しています。曹植が神仙思想に傾倒していたか否かはさておき、関連する詩や賦を作っているのは事実です。この罐を見ていると、そうした曹植の知性や人柄がしのばれるようです。
さらに、もうひとつ紹介しましょう。これは呉の俑(よう)です。俑というのは、始皇帝の「兵馬俑」で有名な、副葬品の人形のことです。当時の人の姿をかたどったこれらの人形は、理屈抜きに可愛いです。
――展示文物以外で、なにか注目してほしい点はありますか。
展覧会図録ですね。文物によって三国志の世界を再構築することを目指して作りました。出土文物は、文献記録ほど雄弁ではないかもしれません。しかし、実物資料ならではの存在感と、実物資料だからこそ語れることがあります。そこから見えてくる三国志像が一冊にまとまっています。三国志の入門書としても、また専門書としても活用いただける一冊だと思います。それから、ミュージアムショップで販売される「グッズ」にもご注目ください。この特別展のために作ったオリジナルグッズが目白押しです。
――開催を待ちわびるご来場者、三国志ファンの方へ向けてひとことお願いします。
会場に並ぶ品々は、いわば三国志の英雄たちと同じ時代の空気を吸ったものばかりです。会場に足を運ばれましたら、思い思いの三国志の世界を楽しんでいただければと思います。あと、できれば三国志に興味のない人も連れてきてください!
――ありがとうございました。ますます期待が高まってきますね。楽しみにしています!
さて、市元さんのインタビューは以上だが、今回の「三国志展」は人気ゲーム「真・三國無双」シリーズ(コーエーテクモゲームス)との様々なコラボレーションが行なわれている。
たとえば、張飛(ちょうひ)の武器「蛇矛」(じゃぼう)を『三国志演義』に記されたサイズで製作、会場内に展示されるのもそのひとつだ。雲南省で実際に出土した「蛇矛」も展示されるので、それと見比べることができる。
そういった現地でのお楽しみはもちろんだが、ウェブサイト上では、自分が三国志の世界の一員になったような気分を味わうことができる企画が6月12日から始まっている。
その名も「特別展『三国志』武将メーカー」。サイト上に、「自分の顔写真」をアップロードすると、人気ゲーム「三國志」「真・三國無双」シリーズの武将ビジュアルと合成され、架空の武将ができあがりだ。なかなか面白いので、ぜひお試しあれ。
また、会期中のもうひとつの楽しみが、NHK「人形劇 三国志」に登場した川本喜八郎さん製作の人形が9体、文物とともに展示されること。
これは人形劇放送当時に製作・使用された「実物」の人形で、現在は長野県の「飯田市川本喜八郎人形美術館」に所蔵されている。記者発表会では曹操の展示が発表されたが、はたして他にはどんな人形が展示されるのだろうか? 本来、飯田まで行かなければ観られない人形たちにも会うことができる、またとないチャンスだ。
ツイッターの特別展「三国志」の公式アカウントによれば、「東京会場の開幕まで1か月弱。今後『破竹の勢い』で関連情報をお知らせしたいと思います」とのこと。竹を破るがごとく発表される情報を楽しみつつ、「三国志展」開催を迎えよう。(取材・構成=上永哲矢)
日中文化交流協定締結40周年記念 特別展「三国志」
会期:7月9日(火)~9月16日(月・祝)
会場:東京国立博物館 平成館(東京・上野公園)
開館時間:9時30分〜17時(金曜日・土曜日は〜21時、入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日、7月16日(火)※ただし7月15日(月・祝)、8月12日(月・休)、9月16日(月・祝)は開館
前売券:一般1400円、大学生1000円、高校生700円 ※7月8日(月)まで販売
当日券:一般1600円、大学生1200円、高校生900円、中学生以下無料
主催 : 東京国立博物館、中国文物交流中心、NHK、NHKプロモーション、朝日新聞社
後援 : 外務省、中国国家文物局、中国大使館
協賛 : 大日本印刷、三井住友海上火災保険、三井物産
協力 : 飯田市川本喜八郎人形美術館、コーエーテクモゲームス、日本航空、光プロダクション※2019年10月1日(火)~2020年1月5日(日)は、九州国立博物館(太宰府天満宮横)でも開催。くわしくは以下、公式サイトへ。
特別展「三国志」公式サイト
https://sangokushi2019.exhibit.jp/最新情報がすぐに分かる、公式Twitterはこちら!
@sangokushi2019 #これぞリアル三国志
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