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漫画『夢の雫、黄金の鳥籠』の作者・篠原千絵さんが語るトルコドラマ「オスマン帝国外伝」の魅力

漫画『夢の雫、黄金の鳥籠』の作者・篠原千絵さんが語るトルコドラマ「オスマン帝国外伝」の魅力

時は16世紀、第10代皇帝スレイマンが治めるオスマン帝国を舞台にした大ヒット宮廷歴史ドラマ「オスマン帝国外伝~愛と欲望のハレム~」。奴隷から皇帝妃にまで上り詰めたヒュッレムを中心に、スレイマンの寵愛をめぐる女性たちの熾烈な闘争劇が繰り広げられます。漫画『夢の雫、黄金の鳥籠』(小学館)で、このドラマと同時代、同人物を描いている漫画家・篠原千絵さんに作品執筆の裏話や、シーズン3放送に向けてドラマの気になるポイントなどをうかがいました。


篠原千絵プロフィール

1981年漫画家デビュー。『闇のパープル・アイ』にて第32回小学館漫画賞、『天は赤い河のほとり』にて第46回小学館漫画賞を受賞。『海の闇、月の影』、『蒼の封印』など代表作多数。現在、16世紀オスマン帝国を舞台にした『夢の雫、黄金の鳥籠』を隔月刊コミック誌「姉系プチコミック」(小学館)にて連載中。

 

――『夢の雫、黄金の鳥籠』はヒュッレムが主人公ですが、彼女に興味を持ったきっかけと理由を教えてください。

以前、ヒッタイトを舞台にした『天は赤い河のほとり』という漫画を描いておりまして、取材でトルコに行く機会が何度かありました。ヒッタイトの取材というと、中央アナトリア地方に入りますが、日本からの玄関口はイスタンブールですから、必ずイスタンブールに最低1泊することになります。そこで資料探しをするのですが、ヒッタイトの資料は非常に少ないんですね。多いのは、やはりオスマン帝国の資料なんです。ビジュアルとしても美しいので何冊か買ったところ、その中でヒュッレムという名前を知りました。イスラム圏において、女性の名前が残っているというのは稀有なことなので、すごい人なんだなと思いつつ、彼女は悪女としても名前が残っている人だと知りました。でも、少女漫画をずっと描いてきた立場としては、悪女として知られてきた彼女にも何か言い分はあるだろうなと。それが、ヒュッレムへのアプローチのスタートでした。

――ドラマでは悪女的に描かれていても、ヒュッレムはきっとたくさん傷ついてきたと思うので、ドラマとあわせて漫画を拝読すると、より多くを知ることができそうですね。

ありがとうございます。

「夢の雫、黄金の鳥籠」より 左からスレイマン1世、ヒュッレム、イブラヒム

 

「オスマン帝国外伝」より 左からスレイマン、ヒュッレム、イブラヒム

 

――2010年に『夢の雫、黄金の鳥籠』の執筆を開始され、ドラマ「オスマン帝国外伝~」は2011年にスタートしていますが、ドラマのことはいつ知りましたか?

ドラマの開始前後だったと思います。『夢の雫、黄金の鳥籠』の連載を準備していた頃に、オスマン帝国のスレイマンとヒュッレムを主人公にした作品が始まると聞きました。ちょうどドラマが盛り上がっている時にトルコを訪れたら、放送時には街中から人がいなくなり、ハマム(トルコの公衆浴場)が空っぽになると言われていて、日本の昔のラジオドラマ「君の名は」みたいだなと思いました(笑)。ドラマが爆発的にヒットしたからなのか、ちょうどハレムの改修工事が入っていたためなのか、トプカプ宮殿でハレム展という特設展が開催されていた時期でした。ハレムのものって、滅多に展示されないので珍しいことでした。その時に、「オスマン帝国外伝」の広告のようなものがトプカプにも街中にも貼ってあって、すごい人気なんだなと実感しました。

――先生の漫画は、ドラマと違ってヒュッレムとイブラヒムが惹かれ合う関係ですが、どのように思い浮かんだのでしょうか?

作り手側の都合ですが(笑)、そういう設定にすると、少女漫画としては面白いのではと考えたのがきっかけです。ヒュッレムとイブラヒムのいわゆる不倫ものみたいな形で描いていますが、日本でトルコを研究している方とお話しすると、「面白いとは思うけど、トルコではスレイマンが大人気だから、この二人の不倫ものはダメだと思うよ」と言われちゃいました(笑)。

漫画で描かれるイブラヒムとヒュッレム

 

――ドラマのスレイマンも素敵ですが、篠原さんの描くスレイマンはとてもカッコ良いです。どのようにイメージされましたか?

たぶんトルコの方々が思い描くスレイマンは、ドラマで描かれているような“偉大なる皇帝”だと思うんですが、私はトルコで育っていないので、好きに設定してしまおうと。トルコの方々にとって、スレイマンは日本で言うところの信長、秀吉、家康のように、誰もが知っていて、語り出したら止まらないという感じの人なので、ドラマで描かれるスレイマンがトラディショナルなイメージだと思いますが、彼は10代皇帝なので、吉宗くらいのポジションだと思うんです。よく、三代目は家を潰す……みたいなことを言いますが、スレイマンは潰さない三代目といったところでしょうか。お父さんのセリム1世の時代までに、すでに国の版図がほぼピークになっているところで即位した人なので、それほど大きな野心は持っていなくて、自分のポジションを使って人生を楽しむくらいの人の方がキャラクターとして面白いんじゃないかと考えました。あくまでも、少女漫画というカテゴリーの中でのヒーロー像としてイメージしたので、歴史上のスレイマンというのはあまり意識しないで作りました。

――ドラマのヒュッレムの印象はどうですか?

野望がハッキリしていますし、ハレムで生き残っていく強さを持っていて、ブレないキャラクターとして非常に分かりやすく、魅力的な人だと思います。

――ドラマに登場するキャラクターで、特に気に入っているのは?

ドラマに限定するわけではないのですが、歴史的にはミフリマー(ドラマでの名称はミフリマーフ/スレイマンとヒュッレムの娘)が好きです。『夢の雫~』の外伝的な漫画を描くとしたら、ミフリマーの話を描きたいです。あと、ハフサ・ハトゥン(ドラマでの名称はハフサ・アイシェ/スレイマンの母)も好きです。彼女も冷酷なセリム1世に仕えた妃として非常に頭が良い、できた人なんだろうと思うので、キャラクターとして面白いなと思います。

左:ミフリマーフ、右:ヒュッレム

 

――ドラマに登場する衣装や小道具、セットなどは、トルコに造詣が深い篠原さんから見ていかがでしょうか?

本当に素晴らしいと思います。美しいですし、細かいですし、歴史好きな人は見ていてワクワクするんじゃないでしょうか。私は連載を始める前に見たかったです。資料として最高だったのに(笑)。ただ、衣装は当時のオスマン帝国のものより、かなりヨーロッパナイズされているように感じました。当時の写真は残っていませんが、絵を見ると、東洋的なポッテリしたイメージなので。

――先ほどのお話にもありましたが、このドラマがトルコで爆発的なヒットになった理由はどうしてだと思いますか?

スレイマン、ヒュッレム、イブラヒムというキャラクターの知名度は、もちろん相当大きいと思うんですが、やはりストーリーが大河ドラマの王道なんだと思います。のし上がっていくヒロインがいて、有力な敵役がたくさん配置されていて、ジェットコースターのように次から次へと事件が起こっていく。韓流ドラマや中国の歴史ドラマ、日本の大河ドラマも含めて、基本は同じで、みんなが大好きなパターンなんですよね。

――日本で流行っていることにもつながりますね。

そうですね。配置されている人たちがドラマチックに動いていくのって、本当に面白いですよね。人間が面白いと思う流れは、どこの国でも一緒なんだなと思います。

左:スレイマン、右:ヒュッレム

 

――『夢の雫、黄金の鳥籠』のリサーチ中、トルコでの取材も含めて特に印象に残っていることはありますか?

私がイスタンブールで一番好きな場所は、スレイマンのために建てられたモスク、スレイマニエジャーミイです。その中にスレイマンの廟があって、血族の棺が一緒に安置されていますが、ヒュッレムの棺はそこにはないんです。ですが、隣にヒュッレムのための廟が別に建てられていて、スレイマンと共に眠ることを許されなかったのか、別格の扱いで廟が建てられたのか、いろいろ想像すると楽しいです。

――漫画やドラマからトルコに興味を持ち、トルコ旅行をしようと思っている人に、訪れるべきオススメの場所がありましたら教えてください。

今、お話ししたスレイマニエジャーミイがオススメかなと思います。そこからは金角湾も見下ろせますし、非常にいい場所に建っているジャーミイです。ヒュッレムやスレイマンの墓所は、公開されている日とされていない日があるはずですが、公開されている日は普通に見られます。ミマール・シナンという有名な建築家が建てたジャーミイで、非常に美しいモスクです。あと、ハセキ・ジャーミイという、同じくミマール・シナンがヒュッレムのために建てた小さくて可愛い、女性らしいジャーミイもオススメです。今は街のジャーミイとして普通に使われています。たどり着くのがちょっと大変ですけど、ご興味がある方は探して行ってみてください。

――大変勉強になるお話をたくさん聞かせていただき、ありがとうございました。 最後に「オスマン帝国外伝~」シーズン3の放送に期待することを教えてください。

シーズン3では、権力を得たヒュッレムのさらなる活躍、そして暗躍が描かれているとのことですが、スレイマンとヒュッレムの間に生まれた子供たちも大きくなって、世継ぎ問題へとつながっていきますよね。私も自分の作品の中で、今まさに世継ぎ問題について描いているところなので、スレイマンの子供たちをめぐるドラマという点でも、シーズン3の展開に期待しています。

取材・文:清水久美子

「オスマン帝国外伝~愛と欲望のハレム~」シーズン3

放送日:2019年8月8日(木)スタート 月-金 深夜0:00~
番組ページ:https://www.ch-ginga.jp/feature/ottoman/
★シーズン3にまだ間に合う!シーズン1&2ダイジェスト動画はこちら

STORY

母后ハフサ亡きあと、ハレム(後宮)の頂点に上り詰めた皇帝妃ヒュッレム。次なる野望は息子を玉座に就かせることだった。だが、そんなヒュッレムの前に皇帝妃マヒデブランと大宰相イブラヒムが立ちはだかる。一方、皇帝スレイマンは帝国の常勝軍を率いて欧州へ進撃。キリスト教世界に果たし状を突きつける。今日の友は明日の敵。愛と裏切り、試される忠誠心と過酷な運命。壮麗王スレイマンの治世を壮大なスケールで描く待望のシーズン3。

画像:「オスマン帝国外伝~愛と欲望のハレム~」シーズン3 ©Tims Productions

ドラマと同じ時代、人物を篠原千絵が異なる解釈で描く!漫画『夢の雫、黄金の鳥籠』

奴隷の身となった東欧の小さな村の少女・アレクサンドラ。オスマン帝国皇帝スレイマン1世の小姓頭を務めるイブラヒムという男に買われたアレクサンドラは、イブラヒムの元で教育を受けるうち、彼を慕うようになる。
しかしイブラヒムは彼女にヒュッレムという新たな名を与え、スレイマン1世に献上する。イブラヒムへの許されぬ恋情に苦しみながらも、後宮で暮らすことになったヒュッレム。一方のイブラヒムも、ヒュッレムへの愛を胸に秘めていた。権謀術数が渦巻くオスマン帝国後宮を舞台に、スレイマンへの敬愛とイブラヒムとの禁じられた恋に揺れ動くヒュッレムの運命は……!?

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画像:『夢の雫、黄金の鳥籠』©篠原千絵/小学館

 

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