昭和17年、その後の戦の行方を決めた、ある戦いがあった。
「ガダルカナル島の戦い」。
当初、優勢に進めていた日本軍に対する敵の本格的な反撃が始まった戦いである。西沢も空からこの戦闘に参加することになる。
ラバウル島から出撃した西沢は、まずその飛行距離を考え、少し不安になった。
「往復6時間・・・」
当時、零戦は世界一の航続距離を誇っていた。しかしながら、それでもギリギリ飛んで帰れる遠さだった。もし被弾すれば、海の途中で落ちてしまうかもしれない。
「まぁ、弾に当たらなけりゃいいだけだ。自分の腕を信じよう」
切り替えた西沢は、持参したサイダーと巻寿司の弁当をほおばった。美男子であるルックスとは裏腹に、精神は豪傑のような猛々しさを併せ持っていた。
3時間の片道飛行を経て、ガダルカナル上空に到達。まず眼下に広がったのは、アメリカ軍船団の膨大な数だった。まるで海を埋め尽くすかのようだった。
西沢の身体に戦慄が走った。圧倒的な物量を誇る、アメリカを象徴するおぞましい光景。その時、敵機編隊を発見した。
そうつぶやくと同時に、西沢は急降下、グラマンの上空に突っ込んだ。
「ダダダッダダッ」
零戦の機銃が火を噴いた。敵機の胴体と翼に命中。西沢の素早い攻撃に手も足も出ない。手応え十分。さて次の敵機へ、と思った瞬間、
「火を吹かねぇ」
完全に命中したのだが、頑丈な防弾装備がグラマンに味方した。
へへっ、と西沢は笑い、再度さらに近づいて機銃を連射。ポッとグラマンは火を噴き、錐揉みで落ちていった。
「よし、次」
このガダルカナル上空での空戦、西沢は6機を撃墜。そしてラバウル航空隊がいかに無双だったかを示すデータがある。
ラバウル航空隊は敵を43機撃墜、零戦の未帰還は3機。初戦は圧勝だった。
しかし敵は世界最強の軍事国、アメリカ。いくらラバウル航空隊が奮戦しようとも、次々と新手が補充され、物量で圧倒される。日本の歴戦パイロットたちも、果てしなく続く空戦の疲労で命を落としていった。
そんな中、ガダルカナル島も敵の手に落ち、日本は明らかに劣勢となる。
戦の行方は真っ暗になったが、西沢の気概は高い。
「1機でも多く、撃ち落とすだけだ」
その後2年間、西沢は各地で大活躍し、敵からは「魔王」と恐れられた。
「零戦と共に、オレは落ちない」
しかしさらに劣勢となった日本は、新しい作戦を実行に移そうとしていた。
【神風特別攻撃隊】
すでに西沢も、その噂を耳にしていた。そんなある日、上官から指令を受けた。
「西沢、特攻隊の護衛を務めて欲しい」
とうとう来たか。
西沢は心によぎる複雑な心境と共に、快諾した。
<つづく>
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「雲の上、美しいエースの物語」(上)
※参考資料
「最強撃墜王」 武田信行(光人社)
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