4月6日は「城の日」。西洋では、このような語呂合わせで人々の興味を喚起する習慣はありませんが、この機会に西洋の「名城」に思いを馳せてみるのはいかがでしょうか。石造りの城の数々は、日本の城とはまた違う趣があり私たちを魅了します。また、美しいだけでなく、技術的にも歴史的にも重要な位置づけをされ、多数の城が世界遺産に認定されています。数世紀のあいだに一部が崩れてしまった城や要塞も多くありますが、年月に洗われて創建当時とは姿を異にする城もまた美しいもの。今回は、その美しい西洋の名城をご紹介します。
フランスは古城の宝庫
古代ローマ時代に起源を持つ都市が多いフランスは、古代の遺跡から中世の要塞、優雅な宮殿も多く残るまさに城の宝庫です。その中から代表的な城をご紹介します。
ヴェルサイユ宮殿と庭園
人気漫画作品「ベルサイユのばら」の影響で、日本でも知名度抜群のヴェルサイユ宮殿。太陽王と呼ばれたルイ十四世が、1682年に建てた絢爛豪華な宮殿です。
フランスの首都パリの西20キロほどのところに建てられたヴェルサイユ宮殿は、フランス革命の時代まで王家の住居として使用されました。有名なフランス王妃マリー・アントワネットが華麗な宮廷生活を送った歴史の舞台でもあります。フランスの絶対王政の象徴として、フランス国民や外国の君主に心理的にも大きな影響を与えた宮殿でした。
広さは6700平方メートル、宮殿内部には700の部屋、2513個の窓、352個の暖炉、階段67個が存在。また、宮殿よりも治水機能の問題で建設に時間がかかったといわれる庭園は、大小合わせて93個の庭で構成されており、庭園を囲む壁は全長20キロ、庭園内の小道は全長42キロ、彫刻372体、噴水盤55個があるという途方もない規模を誇ります。
1979年、ヴェルサイユ宮殿はユネスコ世界遺産に認定されました。
フォンテーヌブロー宮殿
パリの南東60キロほどのところに位置するフォンテーヌブロー宮殿。その創建は、12世紀にまで遡ります。
フォンテーヌブロー宮殿は、フランス随一のルネサンスの君主フランソワ一世のお気に入りの宮殿でした。イタリア文化に傾倒していた王はここに小さなローマを建設しようとイタリア人芸術家を集めたことでも知られています。現在見られる美しい宮殿は、フランスのルネサンス様式で建てられています。
1981年、ユネスコの世界遺産となりました。
有名過ぎるモンサンミッシェル
おそらく、世界中の歴史的建造物の中でも最も絵になる美しさを誇るモニュメント、それがモンサンミッシェル。西洋に詳しくない方でも、一度はこの美しいモニュメントを写真やテレビで目にしていることでしょう。
キリスト教会の大天使ミカエル(フランス語でミッシェル)に捧げられた修道院がある小さな島は、潮の満ち引きが激しいサン・マロ湾に浮かんでいます。古代から、地元ガリア人の信仰を集めていたこの島は、キリスト教の時代にはベネディクトゥス修道会によって大聖堂が建設され巡礼地として人々に崇められました。特異な構造から、防衛施設や監獄として使用された歴史もあります。類まれなるその景観を求めて、年間320万人もの巡礼者や観光客が訪れています。
1979年、ユネスコ世界遺産の認定を受けています。
ドイツの堅牢な古城たち
ドイツでドナウ川下りを楽しんだことがある方も多いかもしれません。船に乗って川を下っていくと、流域の山の頂上にいくつもの城塞が見えます。「城」は権力者の力の誇示である以前に、防衛と攻撃の拠点として建設されていました。その中世の名残が、色濃く残るのがドイツの古城。もちろん防衛機能に優れています。
ハプスブルク家が全盛の時代には、欧州一の君主にふさわしい美麗な宮殿も多く建設されましたが、いずれにしてもゲルマン民族らしい堅固でシンプルなテイストは長い時代を通じて変わりません。
ヴァルトブルク城
ヴァルトブルク城は、ドイツの真ん中チューリンゲン州にある古城。標高441メートルの高台にそびえ立つこの城は、中世ヨーロッパでは最も高い位置に建設された建築として有名です。
西暦1067年、チューリンゲン伯によって建設がはじまり、1440年まで同家の居城として使われていました。その間、継続的に改装増築が繰り返され、第二次世界大戦後に大々的な修復が行われて現在の姿になりました。マルティン・ルターがザクセン選帝侯にかくまわれて10ヶ月をヴァルトブルク城で過ごした過去があり、その間ルターは、当時ラテン語であった新約聖書をドイツ語に訳しています。歴史的にも重要な役割を果たした城です。
1999年にユネスコの世界遺産となりました。
アウグストゥスブルク城
ドイツ、ノルトライン=ヴェストファーレン州のブリュールに建つ瀟洒な宮殿アウグストゥスブルク城。18世紀の初頭に、ケルン大司教で選帝侯でもあったクレメンス・アウグスト・フォン・バイエルンによってロココ様式で建設された宮殿です。
20世紀の終わり頃まで、アウグストゥスブルク城はドイツが国賓を迎えるレセプションが行われる場所でした。庭園はフランス風で、宮殿の南側には一年中花が楽しめる趣向が施されていましたが、19世紀に改築されています。
1984年にユネスコの世界遺産となりました。
まだまだあるぞ!ヨーロッパの美しき名城たち
フランスやドイツにかぎらず、欧州全土には長い歴史の余韻を伝える城が多く残っています。ここでほんの少しだけご紹介します。
イギリス:コンウィ城
イングランド王エドワード一世によって、1283年から1287年にかけて建てられたのがコンウィ城です。ウェールズ公国侵攻の軍事目的のために、エドワード四世は4つの城を建てていますが、コンウィ城もその一つでした。
8個の塔からなる中世の趣が残るコンウィ城は、1986年からユネスコの世界遺産です。
スペイン:セゴビアのアルカサル
スペインのカスティーリャ・イ・レオン州にあるセゴビアのアルカサルは、創建が12世紀。岩山にそびえ立つアルカサルが有名なのは、ディズニー映画の『白雪姫』に登場する城のモデルになったため。軍事目的に建設されたアルカサルは、後にスペイン王家の居城のひとつとなりました。
1985年にセゴビアの旧市街水道橋とともに、ユネスコの世界遺産に登録されています。
イタリア:カステル・デル・モンテ
南イタリアの青い空に映える真っ白な城、カステル・デル・モンテ。13世紀に、ローマ皇帝フリードリヒ二世によって建設されました。八角形をテーマにして建設されたカステル・デル・モンテは、建築狂といわれたフリードリヒ二世が建てた城の中でも最高のできといわれています。しかし、カステル・デル・モンテが建設された理由や目的は現在も謎のままです。
この城は1996年に、ユネスコの世界遺産に登録されています。
世界の城に目を向けるきっかけに!
日本の城とは建築様式も建材も異なるために、まったく違う印象を私たちに与えるヨーロッパの城。東洋と西洋の城の違いは、そのまま文化と歴史の相違でもあります。4月6日の城の日をきっかけに、ぜひ世界中の城にも興味を向けてみてください。世界遺産に認定されていないノイシュバンシュタイン城や優美なエカテリーナ宮殿など、建築技術の粋を極めた荘厳な建築物の数々に魅了されます。きっと、その城にまつわる歴史や人物があなたの想像力をかき立てますよ!
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