【韓国歴史ドラマを100倍楽しむコラム】第2弾「トンイ」

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チャンネル銀河で放送中の韓国歴史ドラマを100倍楽しむために知っておきたいトリビアを韓国取材歴12年の編集者・露木恵美子さんが、5つのポイントでご紹介!第2弾は「トンイ」です。

 

ポイント① 「トンイ」が日本人に受けた理由は?

近年、韓国時代劇が人気を博していますが、この人気に拍車をかけたのが「トンイ」の放送ではないでしょうか? 王家、両班(貴族)、中人(専門家)、常民(庶民)、賤民(奴婢)と、身分階級が細かく分かれて、男女の関係が厳しかった朝鮮王朝時代。「トンイ」では、庶民よりも身分が低かった賤民出身でありながら、朝鮮王朝第19代王・粛宗(スクチョン)に気に入られ、側室になった淑嬪崔氏(スクピンチェシ)の波乱万丈の生涯が描かれています。「宮廷女官 チャングムの誓い」のチャングムと同じように、トンイは実在する人物ですが、“トンイ”という名前は記録に残っておらず、宮廷の下働きから側室になったこと以外は、その生涯が明らかになっていません。しかし、そんな人物の生涯をイ・ビョンフン監督が、いろんな角度から楽しめる興味深いストーリーに仕上げています。

また、「トンイ」の時代は、韓国時代劇で最も多く描かれてきましたが、これまでは、稀代の悪女として知られる張禧嬪(チャンヒビン)にスポットが当てられたものばかりでした。淑嬪崔氏(スクピンチェシ)という深く掘り下げて描かれてこなかった人物がフィーチャーされたことも視聴者の興味を誘ったようです。

毎エピソード、ラスト10分は、トンイの安否や宮廷での出来事にハラハラドキドキさせられ、時には、その展開に手に汗握ることも! そこにタイミングよくそのシーンにピッタリな効果音が挿入され、その演出は、感情を一層高めてもくれます。どこまで本当なのか? 時代考証したくなったり、韓国歴史ドラマ名鑑などを広げながら見たり、ついつい連続で見てしまい寝不足になることもしばしば。意外と見る側に体力が必要ではありますが、トンイを演じたハン・ヒョジュの清楚でハツラツとした姿に癒やされる作品でもあるのです。

ポイント② これだけでも面白い!トンイを取り巻く名脇役

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領土争い、派閥争い、後継者争い、サクセスストーリーなどが描かれていることが多い韓国時代劇。「トンイ」の時代は、朝鮮時代の中でも派閥争いや後継者争いが一番激しかった時代といわれています。ドラマでは、第19代王・粛宗(スクチョン)や仁顕(イニョン)王妃を支持する西人派(ソインパ)と側室である禧嬪張氏(ヒビン チャンシ)を支持する南人派(ナインパ)の派閥争いが、サスペンスっぽく演出されていて、それがスリリングでもありドキドキもさせられます。

そんな中、主役をしっかりと守る武官やホッコリさせられる個性的なキャラクターがいっぱい登場! ドラマを見ていると自然と気になる存在になっていくほどです。ここでは、注目のサブキャラクターを紹介したいと思います。

コミカルなやり取りで笑わせてくれるキャラクター

ファン・ジュシク×ヨンダル
宮廷の音楽を担当する部署=掌楽院(チャンアゴン)の副所長と楽師。身長差のかなりあるデコボココンビ。お調子ものだけど、人一倍トンイのことを心配する。その心配する姿がオーバーで、彼らの登場にホッとすることもあります。掌楽院の人間でありながら、王様にも気に入られ、王宮の外で酒を酌み交わすという仲っていうのも面白い設定です。お笑いコンビとしてやっていけるほどのセンスを持った二人の、アドリブ多発!?のシーンには、毎回笑わずにはいられません。

ポン尚宮×エジョン
監察府(カムチャルブ)の尚宮と女官。後に承恩尚宮(スンウンサングン)(王の寵愛を受けた女官)となったトンイに使える女官となり、出世した気持ちでいるところが面白いです。女官の中では、このコンビがお笑い担当で、いい味だしています。

オ・テプンとその息子
南人派の指導者であるオ・テソクの弟。偉大な兄とは比べられないほど無能なため、出世もできないでいます。その息子は女好きで、無能なことは言うまでもなく。いつも情けなくて、かわいそうな親子ですが、ファン・ジュシクとヨンダルのように登場するだけで、笑ってしまうコンビでもあります。

クールで硬派な姿が印象的なキャラクター

ソ・ヨンギ
王室の警護を担当する親衛隊=内禁衛(ネグミ)の親衛隊長。王とトンイを支える存在。あまり笑うことなく、正義感にあふれ、任務を遂行する姿が何とも凛々しいです。鋭い目力にも頼もしさを感じます。演じるチョン・ジニョンは、かつては映画「王の男」(’05年)で、酒と女に溺れたどうしようもない朝鮮時代の暴君・燕山君(ヨンサングン)を演じた俳優です。映画界で活躍し、なかなかTVドラマに出演していない彼は、「トンイ」では燕山君の時代とさほど差のない時代の武官を演じ、それがびっくりするほど対照的。映画「王の男」を見た人には面白いポイントでもあります。

チョンス
トンイとは幼なじみで兄妹のような関係。迫力あるアクションをあちこちで披露。その華麗な姿にうっとりです。本当の妹のようにトンイを可愛がっていますが、実は思いを寄せています。恋敵が
王様では仕方ないとはいえ、トンイを見守るあの姿には、見ているこちらの心が痛くなることもあります。チョンスを演じたペ・スビンは、トンイを演じたハン・ヒョジュと「華麗なる遺産」(‘09年)で共演。ここでも彼女に思いを寄せる先輩役を演じていました。次回共演したら、思いが届く役柄であってほしいものです。

チャン・ヒジェ
禧嬪張氏(ヒビン チャンシ)の兄。ずる賢くて世渡り上手。妹のために、様々な悪事を働きます。彼のおかげでトンイは数々の窮地に立たされます。トンイの視点から見ると、悪い奴に感じられますが、すべては、妹や一族のため。意外と家族思いな一面を持っています。本作のチャン・ヒジェでは、禧嬪張氏にスポットがあてられたキム・ヘス主演版「張禧嬪チャン・ヒビン」(’02年)に登場したチャン・ヒジェに比べると、コミカルにアレンジされているところが印象的です。

ポイント③ やりすぎなアレンジが興味を誘う韓国時代劇

韓国の時代劇は、ドラマを面白く見せるために、史実を「やりすぎだろう!」ってくらい、アレンジすることが多々あります。「トンイ」では、王と宮中で働く奴婢が町中で出会い、気軽に話をするとか、禧嬪張氏(ヒビンチャンシ)の兄のチャン・ヒジェが、妹のために目障りなトンイを消そうとするとか、宮中にない架空の部署=監察府(カムチャルブ)を作り、色鮮やかな衣装を来た女官たちを活躍させるとか、「やりすぎ」なアレンジが多々ありました。そういった過剰なアレンジは、史実に忠実で真面目なストーリーを進めていったら、きっとつまらないものが出来上がってしまうから故のことなのでしょう。以前、韓国の某ドラマの製作陣に話を聞いたときに、「エンターテインメントだからね」と苦笑いしていたことをよく覚えています。

しかし、この「やりすぎだろう!」ってくらいのアレンジは、意外と設定がしっかりしているため、リアルに感じられることもあります。「トンイ」の場合、オジャギン(死体を調べる人)の娘として育ったトンイは、父の仕事振りを身近で見ていたおかげで、死体を検視できるという能力を持った普通の子供ではありませんでした。そして、後のストーリーに登場する謎めいた事件の解決に一役買っていきます。この斬新でスピーディーな展開には、夢中になって見てしまうという、製作陣の罠にハマッタような感じがします。実はもっとサスペンスタッチの脚本だったらしいのですが、サスペンスは韓国の視聴者にはウケなかったようで、王様とトンイのラブストーリーが増されたそうです。おかげで、監督と脚本家の妄想に近い、王とトンイのラブラインをたっぷりと見せられたような気もします。

さて、劇中で活発に動き、王の寵愛を受けるようになるトンイとは、そもそもどんな人物だったのでしょうか? 粛宗に見初められて、承恩尚宮(スンウン サングン)から淑媛(スグォン)、淑儀(スギ)、淑嬪(スクピン)と、どんどん地位が高くなっていった人物であることはわかります。しかし、実は、歴史書には、第19代粛宗の側室で、第21代英祖の生みの親で淑嬪崔氏としか残っていませんでした。昔は、高い地位になった人は苗字で呼ぶのが礼儀だったため、トンイがもらった位の淑嬪に、姓である崔(チェ)をつけて、淑嬪崔氏と呼ばれ、名前までの記録がなかったようです。そこで、イ・ビョンフン監督と脚本家が、淑嬪崔氏が様々な逆境を乗り越え、成功を収めた元気な女性という意味でトンイ(同伊)と名づけました。トンイのトン(同)には、韓国では「動」という感じの音読みと同じ音だから、行動的なイメージを与えられるという発想からです。

ドラマでは、幼少の頃の記録がまったくなかった人物をよくもここまでアレンジしたな!と思うほど、トンイは、事件解決に走り回り、窮地に立たされていきます。幼かったトンイの父親代わりでもある彼のセリフで、「トンイの奴、居ても心配。居なくても心配。気を揉ませる奴だな」(第6話)、という、とても印象的なものがありました。「トンイ、それ以上は首を突っ込まないで!」と思うほどの彼女の行動には、フィクションとわかっていながらもハラハラドキドキさせられ、ファン・ジュシク同様、「居ても心配。居なくても心配」なキャラクターとして、毎回、親心のような気持ちで見ています。

ポイント④ 「トンイ」で時代劇俳優として存在感を増したチ・ジニ

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2004年、韓国で「宮廷女官~チャングムの誓い」が放送されていたころ、取材などでお世話になったコーディネーターさんが、「マイブームはチ・ジニ。とてもハンサムで、他のどの俳優よりも大好き」と話していたことがありました。その時、私にはあまりピンときませんでしたが、その後、韓国のチムチルバン(健康ランド)で、マダムたちが俳優について話をしているところに遭遇。「落ち着いていて、とってもハンサムよね~」「女性を見つめるときの眼差しが素敵~」「時代もののコスチュームがとても似合うのよねぇ~」と、楽しそうに話をしていたので耳を澄まして聞いてみると……、チ・ジニの話で熱くなっていました。後に「~チャングム」が日本で放送されるようになり、彼が演じた役ミン・ジョンホが、正義感にあふれ武術に長けた武官で、チャングムを見守る優しい男性だったことを知り、なるほど! ドラマを見た女性には、カッコイイという印象が強く残ったんだなぁと思いました。

ところがその強い印象は、本人にはとても負担だったそうで、「俳優として固定のイメージではなく、いろいろな姿を見せなければいけない」と、「~チャングム」以降は、意識的にコメディやシリアスな作品に出演。そしてその結果、どうしようもないダメ男から、血や傷が似合う男まで、作品ごとに新たな魅力と印象を視聴者に根付けることに成功しました。それが自信となり、2010年には、「~チャングム」と同じ監督イ・ビョンフンの「トンイ」で時代劇へと回帰。ここでは、武官から大幅に出世して、李氏朝鮮王朝の王を演じ、再び注目されるようになったのです。

しかし! この王様ときたら、変装して宮廷内外を視察する度胸はあるけど、低い塀も乗り越えられなければ、何者かに狙われたトンイを守るのにも一苦労するほど、弱々しい王様。女官たちにも気軽に声をかける、これまでに描かれてきた古典的な王・粛宗とは、かなり違ったものになっていました。また、演じたチ・ジニに対して、「あの頼もしい武官ミン・ジョンホを演じた人が!?」「コミカルな作品に出過ぎたのでは?」「もしかして女好き?」と思った人も多かったことでしょう。

イ・ビョンフン監督は、1971年に「チャン・ヒビン」で演出助手、1988年には、「朝鮮王朝500年-チャン・ヒビン-」を演出し、「トンイ」以前に粛宗の時代を描いていました。今回は、粛宗とよく比較されるイギリスの“自由奔放なヘンリー8世”のような王という新しい解釈で描いたようです。ゆえにチ・ジニ版粛宗は、自由に動き回り、コミカルでロマンティックな部分もたくさんある、人間味溢れた王にアレンジされ、とても親しみやすいキャラクターになっていました。この大胆にアレンジされた粛宗は、視聴者のウケもよく、チ・ジニの時代劇俳優としての存在感は輝きを増すことになったように思います。

ポイント⑤ 「トンイ」で有名になった二人の女性

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イ・ビョンフン監督作「トンイ」(10年)から、二人の女性が有名になりました。一人は主人公のトンイを演じた女優ハン・ヒョジュです。シチュエーションコメディ「ノンストップ5」(05年)でデビューした彼女は、清楚で可愛らしい姿ですぐに視聴者の心を掴み、日本でおなじみのユン・ソクホ監督の四季シリーズ完結編「春のワルツ」(06年)に主演することに。演技の経験もさほどないのに、

大きな作品の主演とは「シンデレラガールだ」と、当時の韓国のマスコミに大注目されました。その後、いくつかの映画やドラマを経て、初の時代劇「イルジメ~一枝梅」では、演技力が高く評価され、その勢いに乗った彼女は、「華麗なる遺産」(09年)で大成功し、韓国の国民的女優にまで上り詰めました。そして、10年に「トンイ」の主演を演じることになったのです。韓国ドラマをガッツリ見ている人からすれば、「ハン・ヒョジュが『トンイ』で有名になった」といわれると納得いかない方も多いと思うのですが、「トンイ」は時代劇で、これまでに韓国ドラマとは無縁だった男性にも興味を持ってもらえるようになり、その結果、多くの人に認識されるようになったわけです。

キャスティングは、「『華麗なる遺産』での明るくて健康的な雰囲気が気に入った」という脚本家キム・イヨンの強い希望からだったそうです。イ・ビョンフン監督は、ハン・ヒョジュの年齢が若いということを気にしていたようですが、会ったら気に入ってしまい起用したそうです。その期待を裏切ることなく、ハン・ヒョジュは、前半は活発に動き回るおてんば娘、後半は後に王となる息子を育てる凛とした母親を好演しました。宮中内の政治問題に巻き込まれながら、前向きに生きていく姿や、時折見せるさわやかな笑顔に癒やされた方も多いことでしょう。笑顔をいえば、彼女は高校2年生の時に、「ミス・ピングレ(にっこり)選抜大会」で優勝した経歴の持ち主なので、にっこりと笑った顔に魅力があるのは、当然のことかもしれません。

もう一人の女性は、「トンイ」のモデルとなった淑嬪崔氏(スクピンチェシ)です。粛宗(スクチョン)と仁顯(イニョン)王妃と張禧嬪(チャンヒビン)と淑嬪崔氏の話は、これまでにたくさん描かれたてきました。韓国の人なら誰もがもよく知っている話ですが、歴史書でも多くが記録されていなかった淑嬪崔氏の話は、「トンイ」が放送されるまでは、ほとんどの人が知らなかったといいます。「トンイ」の淑嬪崔氏は、粛宗の寵愛を受けた女官、仁顯(イニョン)王妃と仲が良かった、第21代王・英祖の母親であること以外は、フィクションで描かれました。

本作では、とても好印象に描かれていましたが、実は、張禧嬪を自害に追いやったのは、淑嬪崔氏だった!という話もなきにしもあらずで、張禧嬪の視点で描かれた作品の中には「チャン・オクチョン 愛に生きる」(13年)のように、淑嬪崔氏が超悪者として描かれる作品もあります。また、トンイが都から逃げた時に知り合った両班のシム・ウンテクは、実在する金春澤(キム・チュンテク)がモデルで、二人は恋仲であり、のちに英祖となった王子は、二人の子どもだった!というウワサも宮廷内にはあったそうです。

「トンイ」を見た後に、そのような話を聞いたり、そのように描かれた作品を見てしまうと、「違う!淑嬪崔氏は、そんな人ではない!」と抗議もしたくなりますが、何度も映画やドラマ化されてきたテーマだけに、いろんな角度から新しい視点で描かないと高視聴率獲得にはつながらないという制作陣の苦労もわかる気がします。

文/露木恵美子


「トンイ」<ノーカット版>
番組ページ:https://www.ch-ginga.jp/detail/toni/


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