2022年1月3日午後9時から放送されるNHK正月時代劇「幕末相棒伝」は、坂本龍馬(永山瑛太)と土方歳三(向井理)がバディを組むという娯楽時代劇です。
同作品の完成を記念して、このほど座談会が開催されました。登壇者は、土方歳三資料館館長の土方愛さん、歴ドルの美甘子さん、お江戸ルの堀口茉純さん、それに時代考証を担当した私山村の4人です。
坂本龍馬と土方歳三が手を組む娯楽時代劇
原作は五十嵐貴久さんの小説『相棒』(PHP文芸文庫)。いささかインパクトが強いタイトルを「幕末相棒伝」と改め、「超高速!参勤交代」で知られる土橋章宏さんが脚本を執筆、NHKの堀切園健太郎監督が演出を担当しました。
話は慶応3年(1867)の10月、大政奉還を受諾するかどうか迷う将軍徳川慶喜(渡辺大)の行列が何者かに鉄砲で狙撃されました。慶喜は無事だったものの、護衛の新選組隊士1人が死亡。いらだつ土方歳三が幕府若年寄格・永井尚志(杉本哲太)に呼び出されます。
そこで永井から紹介されたのは、倒幕派の大物・坂本龍馬でした。永井がいうには、「土方、この坂本と協力して上様を襲った不届き者を見つけ出せ」。龍馬と一緒ならば倒幕派への潜入捜査もやりやすいだろうということでした。
納得がいかないまま渋々了承した土方と、屈託なく天衣無縫にふるまう龍馬。こうして2大幕末ヒーローによる即席バディが結成され、事件解決に向けて動き出す・・・というストーリーです。
完成映像を見た土方愛さんは、座談会でこう語っています。
「歳三さんのことは時代劇で取り上げていただくことも多いのですが、今回はif(もしも)のドラマということで気楽に観ることができました。でも、歳三さんと龍馬さんはあのころ同時に京都にいたわけですから、もしかしたら本当に町ですれ違っていたかもしれない。そう思うとわくわくしますね」
そう、このドラマはあくまでもフィクションであり、歴史上の事実ではありません。にもかかわらず、観ているうちに段々と永山瑛太が龍馬そのものに見えてくるし、向井理が土方にしか見えなくなってくる。彼らが幕末期に本当にバディを組んでいても、不自然ではないように思えてくるのです。
堀口茉純さんもこう感想を語っています。
「見終わったあと、土方さんと龍馬さんと一緒に時代を駆け抜けたような疾走感がありました。まるで現代劇のバディものを観たような感覚です。もっと長く観ていたかったな。私は新選組オタクで生きてきましたから、向井さんの土方が特によかったですが、瑛太さんの龍馬もぴったりで、この組み合わせを考えた人すごいなー(笑)って思いました」
堀口さん絶賛のキャスティングは、NHKの後藤高久プロデューサーと、松竹株式会社の原克子プロデューサーほか、制作関係者で話し合って決まったそうです。本当に今回のキャスティングのハマり具合は見事なもので、美甘子さんもこう語ってくれました。
「ドラマはテンポがよくポップで、感激しながら観させていただきました。私は龍馬さんが好きで歴ドルをやっていますが、同い年の瑛太さんが龍馬役というのが嬉しかったです。瑛太さんは実際の龍馬よりも顔が小さくてシュッとしてて、ほんと素敵な龍馬でした。土佐弁も違和感なく上手で、そういう点も感心しました」
この日も龍馬の扮装で座談会に登壇の美甘子さん、さすがに龍馬への思い入れは半端ではありませんでした。
時代考証にも力をそそいだ会心の作品
本作が坂本龍馬と土方歳三が手を組むという異色作にもかかわらず、設定に意外と無理が感じられないのは、永井尚志の存在に理由があります。永井は幕府の若年寄格として、いわば土方ら新選組の上司にあたる人物です。実際に幕末期には永井と新選組は深い交流がありました。
一方、永井は倒幕派である龍馬とも親交があり、大政奉還後の政権運営について話し合いを重ねている事実があります。二人の関係性について、龍馬は慶応3年(1867)11月11日付の広島藩士林謙三あての手紙に、「彼玄蕃(永井)コトハヒタ同心にて候」と書いています。永井は自分とぴったり意見が合っている存在だといっているのです。
そんな永井ですから、土方と龍馬を内密に呼び寄せ、将軍狙撃犯の捜索にあたらせることが可能でした。本作を成立させるにあたっては、永井を司令塔に設定したことが大きなポイントとなっていたのです。
ほかに、時代考証的に気をつけた点としては、剣術流派の描き分けがあります。土方が長州藩の桂小五郎(駿河太郎)と剣を交えたとき、「なるほど、神道無念流か」と気づく場面がありました。このシーンをリアルに撮るため、桂役の駿河さんには諸手受けを多用する実際の神道無念流の剣さばきのとおりにしていただいたのです。
同様に薩摩藩の中村半次郎(奥野瑛太)が刀を抜くときには、薬丸自顕流の蜻蛉(とんぼ)と呼ばれる独特の構えをとっています。特に薬丸自顕流というのは特徴的な剣法で、抜刀したら必ずこの蜻蛉の構えをとることになっています。したがって、剣術考証的にも嘘のつけない重要な部分なのです。
そんな見どころの多い正月時代劇「幕末相棒伝」、最後に登壇者の方々からひと言づつお願いしました。
「NHKでお正月に時代劇をやるとなると、もっと堅い作品を想像しがちですが、この作品は史実がどうとか、そういう難しいことを考えずに楽しめます。歴史の答え合わせをするのではなく、みなさんに思い切り楽しんで観ていただきたいですね」(土方愛さん)
「幕末の2大スターである龍馬さんと土方さんがバディを組むという夢の共演が実現しました。これは私を含めた歴女の夢でもあります。きっとみなさんに楽しんでいただけると思います。私も今日はすごく楽しかったです」(美甘子さん)
「龍馬さんと土方さんは、天保6年生まれの同い年。2人とも末っ子だし、共通点が多いんです。だから2人がもし出会っていたらどんなことを話したかなとか、妄想がふくらみます。私のような歴史オタクにも、歴史に特に詳しくない方にも楽しんでいただける作品です」(堀口茉純さん)
さらに私から付け加えると、事件を解決したあとに迎えるラストシーンが実に秀逸。思わずほろりとさせられます。でもその涙は不思議と冷たいものではなく、温かい気持ちでエンディングを迎えることができました。
そんなNHK正月時代劇「幕末相棒伝」。新年のスタートにふさわしい見応えのある作品に仕上がっていますので、「歴人マガジン」の読者のみなさんにもぜひご覧いただきたいと思います。
NHK正月時代劇「幕末相棒伝」
放送:2022年1月3日(月)夜9時~
番組ページ:https://www.nhk.jp/p/ts/3K4QPLPQRV/
出演:
永山瑛太 向井理
佐藤隆太 白洲迅 堀田真由 浅利陽介 奥野瑛太 和田正人 阿部亮平
谷田歩 駿河太郎 渡辺大 近藤芳正 / 杉本哲太 中村梅雀 ほか
「世界一よくわかる新選組」(著:山村竜也/祥伝社)
あなたの知らない新選組の姿がここにある!滅びゆく江戸幕府に殉じた新選組。彼らは単なる人斬り集団ではなかった……。
NHK大河ドラマ『新選組!』『龍馬伝』『八重の桜』、アニメ『活撃刀剣乱舞』など、大ヒット作品の時代考証家が新資料で明かす真実とは?
「世界一よくわかる坂本龍馬」(著:山村竜也/祥伝社)
幕末維新の英雄としてあまりにも有名な坂本龍馬。しかし、これまでは過度に美化されてきたところも。NHK大河ドラマ「西郷どん」「龍馬伝」の時代考証家が史料を読み込み、人間・龍馬の真の姿を解き明かす。
【風雲!幕末維新伝】連載一覧
第1回「坂本龍馬暗殺の犯人はこの男だ」
第2回「勝海舟は江戸無血開城をどうやって成功させたのか?」
第3回「坂本龍馬・寺田屋遭難事件の真実を探る!」
第4回「新選組・山南敬助の脱走の謎を解く!」
第5回「“新選組が誕生した日”は何月何日なのか?」
第6回「革命児 高杉晋作が詠んだ幻の辞世!」
第7回「伊庭八郎、箱根山崎の戦いで左腕を失う!」
第8回「新選組、新発見史料が語る池田屋事件の真実!」
第9回「勝海舟が学んだ長崎海軍伝習所とは何か?」
第10回「西郷隆盛の銅像の真実を探る!」
第11回「高杉晋作が坂本龍馬に贈ったピストルとは!」
第12回「新選組の制服羽織の実際を探る!」
第13回「坂本龍馬は勝海舟を本当に斬ろうとしたのか?」
第14回「渋沢栄一と新選組の知られざる交流とは!」
第15回「岩崎弥太郎の見た坂本龍馬と海援隊!」
第16回「幕府遊撃隊長・人見勝太郎 炎の生涯!」
第17回「新選組美少年隊士の謎を解く!」
第18回「幕末に流行した新型伝染病コレラの脅威!」
第19回「高杉晋作が見せた長州男児の肝っ玉とは?」
第20回「薩長同盟は坂本龍馬によって実現したのか?」
第21回「劇団ひとりに受け継がれた土佐二十三士の魂!」
第22回「新選組、局中法度の実際を探る!」
第23回「新選組隊士に求められた唯一の条件とは?」
第24回「近藤勇や土方歳三はいつ農民から武士になったのか?」
第25回「坂本龍馬が進化させた大政奉還論とは?」
第26回「映画『燃えよ剣』にみる新選組(前編)」
第27回「映画『燃えよ剣』にみる新選組(後編)」
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