歴人マガジン

【 近代文学の祖 】病の床にありながらも命の火を燃やし続けた正岡子規の生涯

【 近代文学の祖 】病の床にありながらも命の火を燃やし続けた正岡子規の生涯

明治を代表する俳人 正岡子規。
俳句に詳しくない人は、正岡子規の功績を知らない方もいるかと思いますが、「柿食へば鐘が鳴るなり法隆寺」の俳句を作った人、といえばお分かりになる人も多いかと思います。

愛媛県松山市に生まれ、同郷である「坊っちゃん」で有名な夏目漱石や「日本騎兵の父」と呼ばれた陸軍大将 秋山好古、日本海海戦でロシアのバルチック艦隊を破った海軍中将 秋山真之兄弟とも親交があったとされており、司馬遼太郎氏の大作「坂の上の雲」にも描かれています。
またNHKが2009年から2011年にかけて3年越しで放送した、同名小説原作のスペシャルドラマ「坂の上の雲」では、香川照之さんの熱演で彼を知った人も多いのではないでしょうか。
今日はそんな正岡子規の生涯を追いながら、彼の生きた明治という時代にも触れてみたいと思います。

病に侵されながらも俳句・和歌を大成

正岡子規は慶応3(1867)年10月、愛媛県松山市生まれ。本名常規(つねのり)。
明治16(1883)年に東京大学予備門(現東大教養学部)に夏目漱石らと入学し、卒業後は小説家を目指しますが、好評が得られず断念したそうです。

「坊っちゃん」夏目漱石とは同期だった。
「坊っちゃん」夏目漱石とは同期だった。

その後に日本新聞社の記者として社会人になり、働きながら俳句界の改革に着手。
俳句や和歌を文学の一つとして大成させる活動にその身を投じます。

「奥の細道行脚之図」左が松尾芭蕉、右は河合曾良。
「奥の細道行脚之図」左が松尾芭蕉、右は河合曾良。

それまで日本文学界で最高峰と言われていた松尾芭蕉の高名な俳句を批判、それまで認められていなかった江戸時代の俳人・画家の与謝蕪村を高く評価。
蕪村が確立した、簡潔な描写で視覚に訴えるような「写生」の手法を取り入れた句を続々と発表、俳句界が再び活気を取り戻すきっかけを作ります。
いくつか代表的な彼の作品をご紹介します。まさにその場で風景を見ているような感覚に読者をいざないます。

「風呂敷をほどけば柿のころげけり」
「柿くふも今年ばかりと思ひけり」
「山吹も菜の花も咲く小庭哉」

江戸時代の俳人・画家である与謝蕪村。
江戸時代の俳人・画家である与謝蕪村。

それだけではなく、短歌から散文にいたるまで分かりやすい表現手法を取り入れ、現在の国語表現の祖を築きました。
さらにアメリカから伝わった野球が大好きだったこともあり、用語を翻訳したりと大活躍。
「打者」「走者」「四球」などの言葉を生み出し、平成14(2002)年には野球殿堂入りしたそうです。

折しも時は大日本帝国憲法が発布、日清・日露戦争へと向かう激動の時代。
「坂の上の雲」の冒頭にあるナレーションのとおり、「まことに小さき国が、開化期を迎えようとしている」日本が、まさに近代国家への坂道を必死になって登り始めた頃です。
明治28(1895)年、28歳のときには新聞記者として日清戦争へも従軍、同じく明治時代の文豪で軍医として従軍中の森鴎外と会ったりしますが、帰国の船中で喀血。

明治文学の巨人 森鴎外は軍医でもあった。日清・日露戦争へ出征。
同じく明治文学の巨人 森鴎外は軍医でもあった。日清・日露戦争へ出征。

この頃からすでに脊椎カリエス(結核菌による難病)に侵され、悪化する病状と闘いながらの日々が始まります。
東京台東区にある「子規庵」で病床から動けない生活を送りながら、必死に筆を動かしながら学生時代の同期で、ロンドンに留学中の夏目漱石と親交を深めたり、弟子である高浜虚子に自らの俳句雑誌「ホトトギス」などを引き継ぎ、明治の文学界を牽引。

亡くなる二日前まで新聞の連載を書いていたそうですが、そんなふうに命の灯を燃やし続け、明治35(1902)年 満34歳の若さで死去。
激動の時代を、同じように命をかけて駆け抜けた、なんとも早すぎる死でした。

弟子として子規の遺志を継いだ高浜虚子。
弟子として子規の遺志を継いだ高浜虚子。

こうして彼の交友関係を見ると、この時代に新しい日本の文学界を牽引する人達が多数歴史に名を残しています。
また軍人であった秋山兄弟とは同郷のよしみで繋がっていたというのも凄い話。
それだけ教育を受けられる人が少なかったという状況もあるでしょうが、それにしても時代を感じさせる交友関係ですね。

余命わずかで子規が選んだ究極の選択とは!?

精力的に活動しながらも、すでに28歳のときに当時不治の病に侵され、実質的な余命宣告を告げられた子規。
その絶望と葛藤たるや想像を絶するものだったと思いますが、そんななかでも彼は余命をどう活かすか、という選択に迫られます。
それまで進めてきた俳句の近代化を完成させ、生きた証を残すのか、誰も成し遂げていない「新しい日本語」を作るという見果てぬ夢に挑むか。

NHK BSプレミアム「英雄たちの選択」。
NHK BSプレミアム「英雄たちの選択」。

7/21(木)20:00〜21:00にNHK BSプレミアム「英雄たちの選択」では、死への宣告を受けた子規の「脳内」に深く分け入り、選択の崖っぷちに立たされた子規の葛藤を描く「生きた証か 見果てぬ夢か~近代文学の祖 正岡子規の選択~」を放送予定。

さらに番組は取材を進める中で新たな子規の痕跡を発見?
もしかしたら本日の放送でその発見に立ち会えるかもしれません。
なんとも気になりますが、とにかく今回の「英雄たちの選択」はマストチェックのようです。

近代日本語の発展に多大な貢献をした彼の、人間らしいことばに触れながら、彼の生きた明治という時代を振り返ってみてください。

参照元:
英雄たちの選択」NHK BSプレミアム
子規庵」オフィシャルサイト

編集長Y

Return Top