2018年1月よりチャンネル銀河で日本初放送をスタートする中国歴史ドラマ『開封府(かいほうふ)ー北宋を包む青い天ー』。中華圏で誰もが知る名裁判官・包拯(ほうじょう)を主人公にした同作品をより楽しむために、ドラマと同じ北宋時代を舞台にした漫画『北宋風雲伝』(秋田書店)の作者である滝口琳々氏に包拯や開封について解説してもらいました。
物語の舞台は、北宋時代の首都・開封(かいほう)
北宋といわれても中国史に興味がない人にはピンと来ないかも知れませんが、日本でも有名な武則天や楊貴妃が活躍した唐が滅び、いくつもの国が乱立した中国を960年に再び統一したのが宋でした。しかし1127年、異民族の金という国に北方の領土を奪われ、首都を開封から南東の臨安(現在の杭州)に移したことから、それ以前の開封が首都だった167年間の宋時代のことを北宋、首都を移してからを南宋と呼び分けています。
『開封府ー北宋を包む青い天ー』は3代皇帝・真宗から4代皇帝・仁宗時代の物語ですので、日本ではちょうど紫式部や清少納言が活躍していた1000年前後の平安時代の頃でしょうか。そういわれると遠い昔で身近に感じないかも知れませんが、この時代は侵攻してくる周辺の異民族に大金を払い平和を維持していたため、経済や文化が著しく発展していました。開封の通りには屋台が立ち並び、大道芸や講談などが行われ、飲食店では多くの人々が昼夜かまわずお酒やお茶を飲んでいたということで、現在の日本に少し似たところがあるかもしれません。
地図を見ればお分かりいただけると思いますが、開封は中国の中心付近にあり中華民族発祥地の一つとされ、古い時代から都が置かれていた要所でもありました。北宋時代には空前の繁栄を迎え、世界最大級の都市だったのです。
開封府(かいほうふ)ってどんな場所?
開封府の「開封」は首都の名称、「府」は役所を意味しますが、どんな所なのかを簡単に申しますと警察と裁判所が一つになった役所です。日本の時代劇に出てくる江戸町奉行所みたいな所だとイメージしていただければと思いますが、少し違うのはトップの奉行は裁きだけをして退席しますが、開封府のトップは刑の執行まで見届けます。
余談ですが、現在の開封には北宋時代の建築書をもとに造られたという開封府のテーマパークがあり、当時の法廷や牢屋の雰囲気を体感することができます。
ただ「開封府」には役所の意味だけでなく、もう一つ意味があります。先ほどまで北宋の首都を開封と書いておりましたが、正式には東京開封府(とうけいかいほうふ)といいました。これを略して「開封府」は首都の意味でも使われることがあります。ここでは紛らわしいので首都は開封と書きましたが、他にも東京(とうけい)、汴梁(べんりょう)などいろいろな呼ばれ方をしています。
中華圏では大人気!名裁判官・包拯(ほうじょう)
包拯(ほうじょう)は日本ではあまり有名な人物ではありませんが、中華圏ではトップクラスの人気と知名度を誇っています。実在した人物ですが、後世に講談、小説、芝居、テレビドラマや映画など、さまざまなジャンルで人気キャラクターとなり包公(ほうこう)や包青天(ほうせいてん)などと敬意を込めて呼ばれています。(青天は清廉で公正な裁判官という意味)
史実の包拯(999年~1062年)は、中国安徽省の合肥で官僚の家庭に生まれました。29歳で難関の科挙(エリート官僚を選抜する試験)に合格しましたが、親孝行をするために役人を辞め、両親の死後39歳で再び役人となりました。各地の役所の長官を歴任しましたが、賄賂を取らない清廉潔白な官吏で、性格は剛直、滅多に笑わず、生活は質素、物事には筋を通し、公正で権力者にも容赦ない裁きをしたと伝えられ、当時から庶民に人気がありました。晩年に開封府の長官も務めましたが、64歳で病没したそうです。
彼の死後も、清廉潔白で権力者でも容赦なく裁くというキャラクターが庶民の間で好まれ、昼は現世で、夜には冥界で裁きを行うという噂まででき、当時の盛り場などで包拯が活躍する物語が広く語られるようになりました。
後に雑劇(中国の古典的な戯曲形式の演劇)が多く作られた時代がありましたが、後世に伝わっている脚本の1割は包拯ものだそうですし、公案小説(お役所の文書記録から、事件が起きて解決する過程を描いた小説)がブームの時代にも包拯が主人公の物語は大変人気がありました。包拯とは関係がない事件でも彼の手柄にすれば人気がでるということで、彼のエピソードはどんどん増えていきました。一方、近世の京劇においては、包拯が法を犯した皇族や自分の身内を死刑にしなければならず、職務と情の間で思い悩むという演目が増えていったそうです。そのため包拯役の隈取りは眉をひそめたように大きく曲がり、眉間にシワを寄せた顔になってしまいました。
ついでに申しますと、ドラマの包拯の顔が黒くメイクされ、額に三日月の傷のようなものがついていることに疑問を持たれた方がいらっしゃると思いますが、これは京劇の影響を受けているものと思われます。京劇では「黒」には公正無私で情け容赦がないという意味もあり、額の白い三日月は、昼は人間の冤罪を晴らす実力裁判官、夜は幽霊の訴えを裁く霊能裁判官という象徴的記号だそうです。
以上のように包拯のキャラクターと物語は様々な形で中華圏で語り継がれてきましたが、1000年経った現在でもドラマや映画、小説や漫画などで人気キャラクターとして多くの作品が創り出されています。そのため、色黒の顔と額の三日月を見れば、誰でも包拯だと認識できますし、名推理や権力に屈しない判決を期待してしまうのです。
人気小説『三侠五義』からの影響
包拯が映像化される際、色黒メイクと額の三日月以外にもお約束的な設定があります。それは『三侠五義』という小説のキャラクターたちも登場することが多いということです。
『三侠五義』は19世紀末ごろに書かれたもので、包拯が南侠、北侠、双侠という侠客たちや、五鼠(ごそ)という五人の義士たちと協力して事件を解決していくという物語です。他にも様々なキャラクターたちが登場するのですが、話が進むにつれて包拯が登場する場面が減り、武術の達人たちの物語となりました。しかし、キャラクターが立っている娯楽小説ですし、中華圏では皆が知っているので包拯を映像化する際に登場させやすいのかもしれません。
その中から様々な映像作品に登場する確率が高いキャラクターをご紹介します。まずは包拯の傍で護衛をし、事件の捜査や刑の執行人も務めるのが王朝、馬漢、張龍、趙虎という4人の義兄弟です。彼らは基本的に目立つ存在ではありませんが包拯に仕えているキャラクターとしてよく登場します。(今回のドラマでも登場するので注目してみてください)
そして忘れてならないのが南侠こと展昭(てんしょう)というキャラクターです。彼は最初、庶民のヒーロー的な存在で、何度か包拯を助けるうちに武術の腕を買われて役人となります。包拯とは強い絆で結ばれ、武術の達人として登場しますので、基本的にイケメン俳優が演じることが多くなっています。
『開封府ー北宋を包む青い天ー』でも展昭は登場しますので、包拯とどのように関わっていくのかを観るのも楽しみですね。
本作をきっかけに、日本ではあまり有名ではない北宋時代に活躍した包拯という人物に興味を持っていただけたら幸いです。彼がどのように活躍してゆくのか、期待しながら観ていきましょう。
『北宋風雲伝』をはじめ中国史を舞台にした歴史漫画作品を手がける漫画家。現在は「プリンセスGOLD」(秋田書店)にて『新☆再生縁~明王朝宮廷物語~』を連載中。
中国歴史ドラマ「開封府(かいほうふ)ー北宋を包む青い天ー」
放送日:2018年1月15日(月)スタート 月-金 午後1:00~ 第1話スカパー!無料放送
※リピート:同日スタート 月-金 夜11:00~
番組ページ:https://www.ch-ginga.jp/feature/kaihofu/
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画像:『開封府ー北宋を包む青い天ー』© 2017 Southern Lead TV & Film. All Rights Reserved. 提供:アジア・リパブリック10周年
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