令和2年(2020)11月30日(月)から放送開始予定のNHK連続テレビ小説『おちょやん』。主人公・竹井千代(たけいちよ)のモデルとなっているのは、昭和初期から後期にかけて活躍した喜劇女優・浪花千栄子(なにわちえこ)です。杉咲花さん演じる千栄子とは、一体どのような人物だったのでしょうか?
今回は、千栄子が女中から看板女優になるまでの道のり、名女優としての活躍、千栄子にまつわるエピソードなどについてご紹介します。
女中から役者の道へ
貧しい生まれだったといわれる千栄子ですが、どのように女中から看板女優に上り詰めたのでしょうか?役者への道に突き進んでいった千栄子について振り返ります。
端役からの大抜擢
千栄子は、明治40年(1907)大阪府南河内郡大伴村大字板持(現在の富田林市東板持町)で生まれました。養鶏業を営む父・南口卯太郎は養鶏コンクールで受賞するほどの腕前でしたが、行商で生計を立てており生活はとても貧しかったようです。
千栄子は8歳で道頓堀の仕出し弁当屋に女中として奉公し、その後は京都で女給として働きました。そんな彼女が女優になるキッカケとなったのが、18歳のとき知人の紹介で入った村田栄子一座です。この舞台に立つことで、千栄子の役者への道がスタートします。
しかし、女優への道は簡単ではありませんでした。舞台に立つも不入り続きだった千栄子は、東亜キネマ等持院撮影所に移り端役を演じ続けます。そして大正15年(1926)、ついに大作 『帰って来た英雄』の準主役に大抜擢。それからは順調に出演を重ねていきましたが、給与未払いなどの問題から映画界を去りました。
松竹新喜劇の看板女優に
昭和4年(1929)映画の世界を離れた千栄子は、松竹取締役・白井信太郎により設立された剣劇中心の劇団「新潮劇(新潮座)」に参加します。翌年には2代目渋谷天外、曾我廼家十吾らが旗揚げした「松竹家庭劇」に加入。同年に2代目天外と結婚もしました。
その18年後に、千栄子は夫が旗揚げした「松竹新喜劇」の創設メンバーの一人として活躍することになり、やがて劇団の看板女優としてスターの道を駆け上がっていきます。ところが、夫と新人女優・九重京子の不倫が発覚し、2人のあいだに子供が生まれたことから離婚。昭和26年(1951)には「松竹新喜劇」も退団してしまいました。
名女優としての活躍
劇団を去り女優を辞めた千栄子。そんな彼女が女優として復活したのは、ある一つの出会いがキッカケでした。
芸能界への復帰
芸能界から身を引いた千栄子は、一時期は同業者にとって行方不明の状態になっていました。しかし、NHK大阪放送局のプロデューサー・富久進次郎が千栄子を捜索し、これが女優復帰のキッカケとなります。千栄子は富久の求めに応じ、NHKラジオ『アチャコ青春手帖』に花菱アチャコの母親役として出演。その後、10年以上の長寿番組となった『お父さんはお人好し』で再び花菱アチャコと共演し、子だくさんの母親役が大人気となりました。
多数の映画やドラマに出演
女優復帰を果たした千栄子はラジオドラマとともに多数の映画やドラマに出演し、溝口健二監督や木下恵介監督に重用され活躍の場を広げていきます。NHK大河ドラマ『太閤記』や、黒澤明監督の『蜘蛛巣城』にも出演し、昭和40年(1965)には自叙伝『水のように』を出版。晩年は養女とともに京都嵐山で料理旅館「竹生(ちくぶ)」を営み、溝口監督からの依頼により、この旅館で共演者の立ち振る舞いや着付けなどを指導したといいます。波乱万丈な人生を送った千栄子ですが、昭和48年(1973)消化管出血によりこの世を後にしました。
千栄子にまつわるエピソード
一度は芸能界から足を洗ったものの、人気女優として復帰を果たした千栄子。そんな彼女にまつわるエピソードをいくつかご紹介します。
努力で無学から脱した
幼いころの千栄子は、貧しさから小学教育を受けられませんでした。そのため字の読み書きができず、苦労を重ねたといいます。そんな千栄子でしたが、独学で文字を覚え無学から脱します。女中から女優へと飛躍した彼女は、努力家な女性だったといえるでしょう。
名女優として多くの賞を受賞
千栄子はその演技力から、ブルーリボン賞助演女優賞、毎日映画コンクール女優助演賞、大阪府なにわ賞、NHK放送文化賞などさまざまな賞を受賞しています。また、没後にはその功績を称え、勲四等瑞宝章(ずいほうしょう、社会・公共のために功労がある者に授与される勲章)も受賞しました。
本名にちなんだCMが話題に!
千栄子の本名は「南口キクノ(なんこうきくの)」といい、「軟膏効くの」という言葉に引っかけてオロナイン軟膏のCMにも起用されました。街角に貼られていたホーロー看板でその姿を見たことがある人もいるのではないでしょうか。現在でも、千栄子といえばこのCMを思い出す人が多いようです。
連続テレビ小説『おちょやん』のモデルにも
令和2年(2020)11月30日(月)から放送される朝ドラ『おちょやん』の主人公・竹井千代のモデルにもなっている千栄子。この作品では、芝居のすばらしさに惹かれて女優を目指し、大阪を舞台にした作品には欠かせない存在として「大阪のお母さん」と呼ばれるまでになった一人の女性の人生が描かれます。実力派女優の杉咲花さんがどのように千代を演じるのかも注目です。
「大阪のお母さん」として愛された
千栄子は上方女優の代名詞と言われ、「大阪のお母さん」としても親しまれました。貧しい暮らしから映画女優へと成長を遂げた彼女の人生は、まさに日本のシンデレラストーリーといえるでしょう。離婚を経験したり、一度は映画界から足を洗ったりと波乱万丈な人生を送った彼女ですが、その悲喜交々もまた、女優としての魅力につながったのかもしれませんね。
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