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【川本喜八郎人形に会い、源平合戦を観よう!】『人形歴史スペクタクル 平家物語』の魅力

平安・鎌倉時代が舞台の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』は、前半の大きな山場であり、大きな見どころである「源平合戦」へと進んでいくところ。主に『吾妻鏡』や『平家物語』などの史料をもとに、三谷幸喜氏の大胆かつ、たくみな脚本によるストーリー展開。お楽しみの方は多いだろう。

『人形歴史スペクタクル 平家物語』は全56回、足掛け1年と2ヵ月が放送され、NHKエンタープライズからDVDボックスも発売中。

さて、その源平合戦といえば、同じNHKで1993~1995年に放送されていた『人形歴史スペクタクル 平家物語』が原点であったり、思い出深かったりという方もいらっしゃるのではないだろうか。かくいう筆者も、そのひとりだ。そこで今回は『鎌倉殿の13人』の予習にも最適な、人形劇「平家物語」および、その物語を演じた、川本喜八郎氏作の「人形たち」の魅力に迫ってみたい。

人形劇「平家物語」は第一部から第五部までの5部構成で、第一部から第四部が12話ずつ、第五部のみが8話で「全56話」である。その第一部は、平清盛の青年期から「保元・平治の乱」を勝ち抜いて太政大臣に昇進するまでが描かれる。

清盛は第二部の最終回「清盛死す」まで物語の主役として君臨。はじめは、どこか爽やかなところもある青年だった清盛が、齢をへるにつれて老成し、汚れた権力者に変わっていく。大河ドラマではサラッと流されてしまった観があるが、権力の絶頂のさなかで迎える最期は見ものだ。

本作品の人形の生みの親、川本喜八郎氏(1925~2010)。人形劇「三国志」の制作を終えたあと「次の人形のドラマは吉川英治氏の『新・平家物語』と狙いを定めていた。日本の物語の原点ともいうべき『平家』の人々の典型化にチャレンジしてみたかった。そうなると矢も楯もたまらず、とにかく作り始めてしまった」という思いで制作に着手。話が起こってはこわれ、ようやく「三国志」の10年後に実現できたとのこと。ひとえに氏の並々ならぬ情熱の賜物であった。

さて、第二部では、いよいよ伊豆で長い流人生活を送っていた源頼朝が、以仁王の令旨に応じて挙兵。石橋山の戦いには敗れるが、再起して鎌倉入りを果たす展開が描かれる。『鎌倉殿の13人』の予習として本作をご覧になる方は、この第二部からご覧になると手っ取り早いかもしれない。

北条義時(左)・時政(中央)・宗時(右)の北条ファミリー

それに先立って、冒頭で描かれるのが頼朝と北条政子との結婚場面である。政子の父・北条時政は、頼朝との縁組に反対する。花嫁行列から政子を連れ去り、頼朝のもとへ連れて行くのが、誰あろう北条宗時。大河ドラマの主役・北条義時は、残念ながら本作ではあまり目立たない。

本作では、清盛と同じく主役の扱いを受けているのが、源義経だろう。子供時代から衣川での最期まで、一貫して颯爽たる武者ぶりが描かれる。今年の大河ドラマのダーティーな部分が目立つ義経とは違い、旧来の英雄義経の活躍と悲劇が見られる。同じ人形劇の「三国志」でいえば、趙雲のようなイケメンヒーローといえようか。

義経が趙雲ならば、呂布のような猛将ぶりを発揮するのが木曽義仲だ。倶利伽羅峠の戦いに勝ち、頼朝らに先んじて都入りを果たすも、三日天下のような形で追われる羽目に。しまいには源氏同士の戦い(宇治川の戦い)に敗れて破滅する。

粗暴で政治力に欠ける反面、巴御前や葵御前などの美女を従えるなど、なかなかの色男ぶりも呂布に似たところがある。人形の作者・川本喜八郎氏も、三国志では呂布がかなりお気に入りで、真っ先に造ったというし、木曽義仲にも彼と同じような強さと悲劇性が感じとれるように思う。

「作り続けているうちに『平家』の人形は『三国志』と較べると、どこかおっとりしていておとなしい、ということに気づいた。個性を強調しようとして、顔に凸凹をつけたり、目や鼻を大きくしていたりしていた時、それは夜半であったが、『違うよ!』という人形の声が突然聞こえたのだ。『平家』の人形がおとんばしいのは、物語から来ている必然であったのだ。これが日本人の典型のあり方だったのである」とは、川本氏の談である。

清盛の没後、平家の棟梁となった平宗盛。奮闘するも、源義経ひきいる源氏軍に連戦連敗。とうとう滅亡の憂き目をみる。平家にとっては、清盛の子で後継者として期待されていた、重盛(宗盛の兄)の早世が惜しまれることであった。

物語では悪役になりがちな梶原景時と、北条氏の政権確立に貢献した大江広元。こうした名わき役の活躍が物語に彩りを添える。観ているうちに、登場人物が人形であることも忘れて見入ってしまう。

人形劇「平家物語」は、壇ノ浦で平家が滅亡するまでがメイン。衣川で義経や弁慶が最期を迎える様子、頼朝の天下となった様子の鎌倉がさらりと描かれて終わる。平家滅亡からが本番と思われる『鎌倉殿の13人』の前日譚といえるような内容でもあるから、この機会に「人形劇」を観ておくのはおすすめだ。知名度や人気面では「三国志」に譲るかもしれないが、人形の造詣や操演といった技術面、本物の火や水を使っての撮影など、人形劇の域を超えているのは相変わらず。その完成度からも一見に値する。

最後に、放送で活躍した川本喜八郎氏の人形展示についての新情報を紹介しておきたい。「三国志」と「平家物語」の人形は現在、飯田市川本喜八郎人形美術館(長野県)と、川本喜八郎人形ギャラリー(東京都渋谷区)で、それぞれの所蔵品が展示されている。

今年2022年は、飯田市川本喜八郎人形美術館が開館15周年を迎え、3月より常設展「川本喜八郎 テレビ人形劇の世界 三国志・平家物語」と、特別展「川本喜八郎人形アニメーションの世界」が開催中。

新展示の「平家物語」コーナーでは今回紹介した、源頼朝・北条時政・政子のファミリーをはじめ、義経、弁慶、木曽義仲、平清盛、二位の尼、安徳帝など計30体。

同じく新展示の「三国志」コーナーは48体。コーナー中央では、諸葛亮と司馬懿のにらみあい。また、呉のコーナーでは本編に使われなかったオリジナル人形の大喬・小喬の展示などが今回の見どころだそうだ。

また、特別展「川本喜八郎人形アニメーションの世界」では『花折り』『鬼』『道成寺』『火宅』『いばら姫またはねむり姫』で使われた人形や衣装、資料などが観られる。人形劇だけでなく、国際的にも高い評価を得ていた川本氏の人形アニメーション。絵コンテやデザイン画は初公開なので、ファン必見。お見逃しなく。

【飯田市で観られる川本喜八郎人形】
■飯田市川本喜八郎人形美術館(長野県飯田市)
開館時間 午前9時30分 〜 午後6時30分(入館は午後6時まで)
休館日 毎週水曜日(祝日開館)及び、年末年始
http://www.kawamoto-iida.com/

【東京渋谷でも観られる川本喜八郎人形】
■川本喜八郎人形ギャラリー(東京都渋谷区)
https://www.city.shibuya.tokyo.jp/shisetsu/bunka/kihachiro_gallery/


文・上永哲矢
写真提供・川本プロダクション、飯田市川本喜八郎人形美術館
※参考文献: NHK人形歴史スペクタクル「平家物語」より「新・平家物語」人形絵巻など

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