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三国志や平家物語の人形が生きている!「飯田市川本喜八郎人形美術館」へ行こう!

三国志や平家物語の人形が生きている!「飯田市川本喜八郎人形美術館」へ行こう!

NHK『人形劇 三国志』『平家物語』の人形製作で知られ、日本を代表する人形アニメ監督として活躍した人形美術家・川本喜八郎氏(1925~2010年)。その氏が残した人形の数々を展示しているのが、長野県にある「飯田市川本喜八郎人形美術館」だ。

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長野県飯田市。信州のいちばん南の方にあり、かつて飯田藩5万石の城下町として栄えたころの面影をのこす緑豊かな都市だ。
山間部という環境のためか、他ではあまり見られなくなった伝統芸能が大切にされている。江戸時代から続く人形芝居が盛んで、毎年8月に開催される「いいだ人形劇フェスタ」は今年で35回目を数えるという。

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「飯田市川本喜八郎人形美術館」は、街の中心部を通る「りんご並木」のすぐ横に建っている。喜八郎氏が存命中の2007年にオープンして以来、「人形劇のまち飯田」の拠点施設として愛され続ける施設だ。スマートかつ重厚な外観が印象深い。

もともと喜八郎氏と飯田は縁があったわけではないが、1990年に「いいだ人形劇フェスタ」出演のために初めて飯田を訪れた喜八郎氏は、当時の飯田市長や飯田の人々と交流を深めた。
そして人形を愛する人々の思いに感銘を受け、三国志や平家物語などの人形を寄贈したことが開館のきっかけになったという。

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2階に上がって入口の自動ドアを抜けると、玄関部で諸葛亮(孔明)の人形が出迎えてくれる。これは喜八郎氏が展示用に造った人形で、実物(約60cm)よりも少し大きくできている(約110cm)。
3階のギャラリー(人形の展示エリア)は撮影禁止だが、ここだけは撮影OK。「前出師表」の竹簡文字をバックに、孔明先生と存分に記念写真が撮れる。

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ここが3階のギャラリー入口。川本喜八郎館長の写真パネルの脇には美術館オープン当時に書かれた本人のメッセージが掲示されていて、「人形にかわって心から感謝いたします」という、飯田市民や来館者に対する言葉がとても印象的である。

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ギャラリー内部は人形たちが壁に沿ってズラリ。同美術館には喜八郎氏が手がけたNHK人形劇「三国志」や「平家物語」、人形アニメーションの人形が約200点も収蔵され、そのうち約60~70点が常設展示されている。
展示替えが年に2回あり、毎回さまざまなテーマによる展示が行なわれる。今回紹介するのは、2015年12月から2016年5月まで開催されていた「新・三国志英雄列伝序章」の模様だ。

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最初に迎えてくれたのは紳々(しんしん)、竜々(ろんろん)の人形。『人形劇 三国志』を知る人には説明不要と思うが、本編で司会・解説役をつとめていた島田紳助・松本竜介の漫才コンビの分身である。
雑兵身分のまま三国志の時代を生き延びる両名は、同作において欠かせない存在といえよう。

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英雄列伝序章にふさわしい3人、張角・張宝・張梁の黄巾党トリオ。劉備たち桃園三兄弟は血がつながっていない義兄弟だが、この人たちは本当の兄弟だ。そこがすごい(?)。

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先に進むと董卓・呂布・王允・貂蝉がいた。ご存じ「美女連環の計」に関わる人たちだ。李儒のほか、弘農王、陳留王、何后、何進、董太后の人形もあった。なんといっても呂布のカッコよさが目を引く。個人的には董卓も実に貫録十分で大好きである。

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お待ちかね、劉備主従のエリア。左が趙雲、右は(背を向いてしまっているが)関平。その上で赤兎馬にまたがっているのが関羽だ。これを正面から撮ったカットが、一番上に載せた写真(諸葛亮・劉備・関羽・張飛・淑玲)になる。「序章」というテーマではあるが、龐統(ほうとう)、 馬超、黄忠、孫乾などの面々もいた。

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その向かいは曹操軍の武将たちのエリア。夏侯惇、夏侯淵、典韋たちが、あたかも軍議でもしているかのように生き生きとした姿を見せている。後ろには于禁、龐徳(ほうとく)、許褚(きょちょ)もいる。

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もちろん、陣営の中心に居るのは曹操。助言しているのが軍師の郭嘉や程昱たち。苟攸、荀彧(じゅんいく)、司馬懿の姿もあった。喜八郎氏自身は曹操がとてもお好きであっただけに曹操人形の造形は特に素晴らしい。

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こちらは孫権軍。孫権と、その母親の呉国太、伯父の喬国老。妹の孫夫人、諸葛瑾もいた。喜八郎氏は主要人物の顔(かしら)は何度も製作し直して完成させたというが、喬国老のような脇役の人形も決して手を抜かず、実に細部まで精巧に造られていることに毎度ながら感心する。

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周瑜、陸遜、魯粛。映っていないが黄蓋、闞沢(かんたく)の姿も。史実に即した場面ではなく、「江東の群像」という小テーマによる展示。周瑜がいかにも「美周郎」であり、女性ならずとも惚れ惚れするような雄姿だ。

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ギャラリー中央には「メカ馬」の展示もあった。これは人間による人形の操作だけでは再現できない「軍勢」の姿を遠くから写すために製作されたもの。人形操演者でもある岡崎明俊さんとその事務所が製作し、当時としては画期的な手法として注目されたという。

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館内には衣装を外した状態の人形(紳々など)が置かれていて、そのカラクリを眺めたり、人形の操演体験もできたりする。
この日、案内してくれたのは美術館スタッフの田川さん。地元飯田生まれの田川さんは、小さい頃から人形が大好きで、3年前からスタッフを務めているそうだ。生前の川本喜八郎氏と直接の面識はないが、飯田で喜八郎氏が出演したイベントなどをよく観ていたという。

「海外のお客さまも含め、年間で約2万人の方が来場します。熱心な方が多くて、中には4時間も滞在してくださったファンの方もいらっしゃいます。スタッフとして本当に嬉しいですね」と田川さん。人形劇三国志の放映は1982年。実に30年以上も前に制作された作品と人形が、今も三国志ファンを魅了し続けている様子が、ここにいると実感できるのだろう。

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田川さん自身は、三国志では呂布の人形が大のお気に入りという。確かにカッコいいですよね、呂布。喜八郎氏自身、呂布のように悲哀を持った武将を愛しておられた。当然呂布にも相当な思い入れがあり、気合いを入れて製作したと聞く。本当に生きているようではないか。

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ぜんぜん紹介しきれずに恐縮だが、館内では「三国志」「平家物語」のほか、「死者の書」「冬の日」「火宅」といった喜八郎氏のアニメーション作品で使用された数々の人形作品も見ることができる。

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2階のエントランス脇には映像ホールがあり、喜八郎氏のアニメーション作品が楽しめる。この日は「花折り」「世間胸算用近頃腹之表裏」が上映されていた。「三国志」「平家物語」以外の作品に触れられる良い機会だし、短編作品なので休憩も兼ねてご覧になるといいだろう。

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受付横にはミュージアムショップがあり、そこでは「喜八郎グッズ」などが販売されている。特におすすめしたいのは人形製作にあたって喜八郎氏がスケッチした絵柄をプリントしたオリジナルTシャツだ。黒Tシャツは三兄弟、関羽、孔明の3種類があり、値段は3590(サンゴク)円。

さて、最後に2016年6月4日(土)から、同美術館では新たな展示「後漢末―三顧の礼」が始まる。
「人形劇三国志」の前半を彩る人形たち59体が展示され、曹操や劉備などなじみの人物のほか、5月までは展示されていなかった孫堅、孫策、甘寧、太史慈、劉表、徐庶などの人形がお目見えする。「三顧の礼」にもスポットが当たるので、水鏡先生や諸葛均、寝間着(パジャマ)姿の諸葛亮も登場するそうだ。
URL: http://kawamoto-info.jugem.jp/?cid=1

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「飯田市川本喜八郎人形美術館の展示コンセプト『生きている』を大切に、ますますストーリー性に重きを置いた展示を心がけてまいります。三国志の世界を形づくる人形達の圧巻の演技にご期待下さい」とは、同美術館展示の監修を行なっている川本プロダクションからのメッセージだ。

川本喜八郎氏は2010年に他界され、人形が新たに生まれることはなくなった。しかし、氏の人形は、このように色々な角度から紹介され、これからも多くの人を魅了し続けることだろう。

夏休みまではもう少しあるが、初めての方はこの機会に、常連の方は今回も、ぜひ飯田に足を運んでみてほしい。飯田は電車で行きづらく、新宿や横浜から高速バスで4時間ほどかかる(名古屋からはバス2時間)。

よって、なかなか行く機会に恵まれず、筆者自身も美術館がオープンした2007年以来9年ぶりの飯田訪問となってしまった。だが、バス便は30分に1本ぐらいあるし、いざ訪問してみればそんなに遠くも感じないものだ。展示替えもあることだし、これからは少なくとも年に一度か二度は人形たちに会いに行きたい。行かなければと胸に誓った。
【 文と写真:哲舟(上永哲矢) 】
※館内の様子は2016年5月、飯田市川本喜八郎人形美術館および川本喜八郎プロダクションの許諾を得て撮影したものです。

■飯田市川本喜八郎人形美術館
開館時間 午前9時30分 〜 午後6時30分(入館は午後6時まで)
休館日 毎週水曜日(祝日開館)及び、年末年始
URL: http://www.kawamoto-iida.com/
■川本喜八郎 Official WEB SITE(川本プロダクション)
URL: http://chirok.jp/

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