城郭研究家・西股総生の【 戦国の城・ネコの巻 】第3回「天守って何だ!」

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「武田系の丸馬出は・・・」「いや、諏訪原城の場合・・・」「関東では虎口と横矢掛りの関係が・・・」などなど、ふだんは難しい議論をしている縄張り研究者の皆さんも、実は天守が大好き。研究会の休憩時間や懇親会などでは、他愛もない天守談義で盛り上がることもしばしば。

そう、天守には城好きの人たちを惹きつける、不思議な力があるのです。かくいう僕も去年の暮れ、たまたま丸岡城に立ち寄る機会があって、「やっぱりカッコいいなあ、ホンモノは。このまま何時間でも眺めていたいなあ」と思ったものです。

丸岡城天守。あらためて見ると、なかなかデザイン的なまとまりがよい

さて、天守とは何でしょう? 天守は城のシンボル。だから、天守は権威の象徴として、城主の権力をアピールするために建てられたのだ、という人がいます。でも、僕の考えはちょっと違う。実用品として造られたものが結果としてシンボルとなってゆく、というのと、最初からシンボルタワーとして建てる、というのは話が別だと思うから。

実用品が結果としてシンボルになるというのは、たとえば昔の戦艦なんかがそうですね。日本の長門・陸奥や、ドイツのビスマルク・ティルピッツあたりが代表例。最初からシンボルタワーとして建てるというのは、万博公園にある太陽の塔みたいなものですね。

では、天守はどうでしょう。今度、どこか現存天守を訪れる機会があったら、室内から窓ワクの所をよ~く観察して下さい。壁がいかに分厚く造られているか、実感できるはずです。

丸岡城や松本城・松江城などでは、下見板張りといって、黒っぽい板を外壁に張ってありますが、天守の壁が板でできているわけではありません。壁そのものは、厚さが数十センチもある分厚い土壁(中に石が練り込んである)で、下見板は表面が崩れないように押さえているだけなのです。

そう、天守とは、当時の建築技術でもっとも燃えにくく、鉄砲の弾でも打ち崩されないよう、頑丈な構造に造ってあるわけです。

松江城天守。戦艦の装甲板のような分厚い壁で覆われた天守は城内で最大の火力を発揮する

そもそも日本の城は、中心部へ行けば行くほど、守りが固くなる方向に進化しています。敵に攻め込まれた場合でも、少しでも長い時間持ちこたえて、落城を遅らせるためです。
そんな城のいちばん中心に、一段と高く石垣を積み(天守台)、当時の建築技術で最大限に耐火性と耐弾性を追求した建物を建てている。天守とは、城内で最大・最強の戦闘施設、まあ、城におけるラスボスなわけです。だから、造られた時期が古い天守ほど、戦うための設備が充実しています。狭間や石落としが付いていたり、籠城に備えた城主の間や井戸があったり。

松本城天守。両サイドに手下をしたがえて立つ姿はラスボスにふさわしい

とはいえ、どうせ造るからにはカッコよく造りたい、というのも人情。とくに天守の場合は大きいし、城の中心にドカーンと建っているから、イヤでも目立ちます。造るからにはカッコよく、というのは国会議事堂や東京都庁なども同じ。まあ、都庁の場合はカッコよさにこだわりすぎたために、とくに上層階は事務所として使いにくい、という声も耳にしますが・・・。

天守の場合、ふだん人が住むわけではないし、事務所として使うわけでもないので、戦闘機能+カッコよさで形が決まります。その意味では戦艦と似ているかも。ビスマルクや長門だって、強力な艦砲を満載しながら外観がカッコよく見えるよう、けっこう気をつかって設計されています。

天守を建てるような城の場合、築城者(城主)はその城のオーナーです。しかも、武士(侍)とはもともと、武(=戦い)をなりわいとする人たち。命のやり取りをする職業なのです。そんな武将たちがオーナー城主となって、最後に自分の命を預ける場所が天守。だったら、カッコ悪いなんて許せない!

ほら、武将たちって、甲冑とか陣羽織とか旗指物とかの色やデザインに、ものすごくこだわるでしょう? 戦士である彼らは、自分の武功をアピールするのが大好きな目立ちたがり屋さん。ダサイ格好で命のやり取りをするのはイヤ。

彦根城天守。優美・瀟洒と評される彦根城天守だが、破風で風を切って立つ姿は意外にヤンキー?

そんな彼らが、城内で最大・最強の戦闘施設を造るとしたら、精一杯カッコよく、肩で風を切るような建物にしたい、というのは当然でしょう。だから、現存12天守や、写真が残っている天守を見ると、どれも外観が個性的。デザインに徹底的にこだわって、自己主張の強い建物に仕立てているのです。ゲームのラスボスだって、デザインが凝っていて、唯一無二の形をしているでしょう?

だから、天守の形を詳しく見てゆくと、興味が尽きません。あなたは、姫路城の大天守が、わざと左右非対称にデザインされていることを知っていましたか? 犬山城天守の平面形を正しく描けますか? あるいは、丸亀城天守の初重が、なぜ二面だけ下見板張りになっているか、考えたことがありますか?

興味は尽きませんが、ページが尽きてしまいました(笑)
この話の続きが気になる人は、6月10日(土)のトークイベント「天守の話をしよう」へ、どうぞ。

天守に立てこもって徹底抗戦だにゃあ!
画像協力:いなもとかおり

クラブツーリズムトークイベント「西股総生×いなもとかおり 天守の話をしよう!」
開催日:6月10日(土)
開催場所:新宿アイランドウィング
参加費:1,000円【コース番号=C2021-038】
申し込み:クラブツーリズム申し込みページ
現存天守の高欄と模擬天守の高欄の違いは? 丸亀城天守の2重目になぜ唐破風がついているのか? 復元・模擬天守のココがダサイ! などなど、徹底的に軍事の視点から城を分析してきたナワバリストだからこそ、語りたい天守の真実。

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