2017年は歴史書の当たり年。なかでも『応仁の乱』『観応の擾乱』などは、お値段もサイズもコンパクトな新書版ながら、その着眼点とボリュームのある内容で大ヒットとなりました。今回は2018年大河ドラマ「西郷どん」を前に、幕末維新をテーマにした新書の中から、おすすめの5冊をご紹介します。
最新研究でわかる西郷隆盛の素顔
歴史上、屈指の知名度を誇りながら、いまだ謎多き人物である西郷隆盛。徳川将軍から芸妓まで、あらゆる人々の証言を読み込んだ最新の研究成果のもと、西郷の実像に迫ったのが『西郷隆盛 維新150年目の真実』です。「なぜ早い段階で自決しなかったのか」「なぜ写真が残されていないのか」など、西郷にまつわるさまざまな謎を取り上げ、その特異なキャラクターを解き明かしていきます。
西郷について、著者の家近良樹氏は、「人の好き嫌いも激しく、しばしば敵と味方を峻別しないではおれない一面があった」としながら、苦難を経験し、人間修養に努めることで、「変身」。その後、西郷は以前よりも真意を明らかにしない「演技力」を身につけたことで、ミステリアスで個性的、さらには魅力に富む人物になったと説いています。
従来の薩長史観だけではない、「一会桑政権」(「一」=一橋慶喜、「会」=会津藩主・松平容保、「桑=桑名藩主・松平定敬)を主張するなど、幕末維新の新しい見方を発表し続ける著者による「本当の西郷さん」とは。とにかく西郷隆盛を知りたい!という人におすすめです。
徳川家から見た西郷隆盛の実像とは?
著者の徳川宗英氏は、8代将軍吉宗によって創設された徳川御三卿のひとつ、田安徳川家11代当主。しかも祖母が、最後の薩摩藩主・島津忠義の四女という、薩摩方の血も受け継いでおり、家には、祖母にとっては義理の伯母にあたる篤姫の位牌が並んでいるのだとか。そんな徳川と島津の血を引く著者が、徳川家に伝わる貴重なエピソードを織り交ぜながら、西郷の生涯を紹介しているのが『徳川家が見た西郷隆盛の真実』です。
島津斉彬に「お庭方」として引き取られてから、中央政界進出、戊辰戦争、征韓論、西南戦争と、西郷の人生を時系列で紹介しながら、上野公園に西郷の銅像が建てられた理由や、靖國神社に祀られなかった謎が語られています。西郷の歴史を、新たな角度から知ることができる1冊です。
藩という組織の観点から幕末維新をひもとく
歴史作家として多数の著作を誇る伊東潤氏の新書『幕末雄藩列伝』。幕末期から明治維新期にかけて、藩の実権を握った人々が、どのような経緯でどう決断し、その結果どうなったのか、藩という組織の観点から幕末維新をひもとくという、あるようでなかった本がこちらです。
紹介されている14の藩は、薩摩藩、長州藩、土佐藩、会津藩など、幕末維新の中心となる藩から、井伊直弼の彦根藩、諸藩から「眠れる獅子」と恐れられていたという仙台藩、一万石そこそこでも「雄藩」と呼べるだけの意地を貫いて散っていった請西(じょうざい)藩など、幅広く取り上げられているのも特徴です。藩という組織それぞれに幕末維新があったこと、そしてその藩が明治維新によって一気に解体されたために、順応できなかった人たちがいたことを、改めて思い知らされます。
各藩の歴史はもちろん、核となる部分がわかりやすく書かれているので、いろんな藩の動向が気になる人はもちろん、幕末維新史初心者にもおすすめです。
地形と地理で読み解く幕末史
近年流行の「地政学」の幕末史版といえるのがこの『なぜ、地形と地理がわかると幕末史がこんなに面白くなるのか』です。「なぜ、ペリーは江戸に直接来なかったのか」「なぜ、鳥羽・伏見が最初の決戦の場となったのか」などの大きな出来事から、「なぜ、新選組は西本願寺を屯所としたのか」など、それぞれの立場の事情まで、幕末維新の鍵となる50項目がわかりやすい説明と地図で紹介されています。
監修は、「西郷どん」を始め、多くの幕末大河ドラマの時代考証を務める大石学氏。地形や地理に注目し、「なぜ、その場所だったのか?」という観点から時代や出来事を見ることで、幕府と諸藩、または外国との関係をより鮮明に理解することができます。さらに、一見関係のないような人や地域が結びつき、新たな発見につながるので、幕末維新史全体を学び直したい人にもぴったりです。
こんな時代だからこそ貴重なグルメ日記
隻腕ながら遊撃隊長として榎本武揚とともに戦い、26歳にして五稜郭で亡くなった伊庭八郎。死の5年前にあたる元治元年(1864)、将軍家茂の京都上洛に帯同した際に記した「征西日記」には、その勇ましいタイトルとは裏腹に、伊庭が呑気に京都を観光したり、食べ歩いたりする日常がつづられていました。
歴人マガジンにて「風雲!幕末維新伝」を連載中の山村竜也氏による著書『幕末武士の京都グルメ日記 「伊庭八郎征西日記」を読む 』には、全文の現代語訳とともに、当時の政情や、文化に照らし合わせ、詳細な解説が加えられています。ある日はうなぎに舌鼓を打ち、ある日は赤貝を食べ過ぎて寝込んでしまう。殺伐とした幕末京都にありながら、幕臣のリアルな日常が実感できるとともに、ほっこりできる、稀有な一冊です。
2018年は明治維新150年でもある年。休日や冬休みなど、時間のある時に是非ご一読してみてはいかがでしょうか。
(編集部)
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