【松平定知が語る】「あさが来た」のモデル・広岡浅子の魅力とドラマの見どころ

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「連続テレビ小説 あさが来た」より ©NHK

チャンネル銀河で2020年2月5日(水)よりCS初放送を開始する「連続テレビ小説 あさが来た」。これを記念し、「その時歴史が動いた」の司会などで知られ、「あさが来た」にも出演した松平定知氏に、主人公・あさのモデルとなった広岡浅子の魅力とドラマの見どころについて語っていただきました。

相撲が大好きなおてんば娘 嫁ぎ先の倒産の危機を救う

連続テレビ小説『あさが来た』は、明治時代に活躍した実業家・広岡浅子をモデルとする白岡あさ(波瑠)を主人公に据えた物語である。あさの快活なキャラクターが魅力的で、絵に描いたようなサクセスストーリーが人気を集めた。ドラマのおもしろさは数字でも裏づけされていて、21世紀に放送された朝ドラのなかで最高の平均視聴率となる23.5%を獲得している(2019年12月現在)。その人気は放送後も衰えず、NHK特設サイト朝ドラ100「あなたの〈イチオシ朝ドラ〉投票」でもダントツの第1位に選ばれているのである(2019年3月現在)。

あさのモデルとなった浅子の座右の銘は「九転び十起き」である。慣用句として使われる「七転び八起き」より2度も多い。それほど起伏の激しい人生であり、そのつど浅子はあきらめずに不死鳥のように立ちあがってきた。私は不撓不屈の精神を貫いた彼女にピッタリの言葉だなぁと得心している。

「連続テレビ小説 あさが来た」より ©NHK

京都の豪商・三井家に生まれた浅子は、かなり風変わりなお嬢さまに育った。裁縫や茶道など良家の女子がたしなむ習い事が大嫌いで、ほかの男兄弟に交じって相撲や木登り、書物の素読などをしていた。「女だてらに本なんか読んで!」と両親に叱られ、13歳のときにいっさいの読書を禁じられてしまう。

ドラマでも、鈴木梨央さんが演じる少女期のあさが、親の目を盗んで書物を読み、そろばんをはじき、木登りをしていた姿が印象深い。とくに「パチパチはん」と呼ぶそろばんを振りながら踊っていた姿が脳裏に焼きついている。この少女時代の経験が、のちの重要な伏線になっているのもポイントだ。

浅子は17歳で大阪の豪商・加島屋の広岡信五郎と結婚する。加島屋の主要取引先は諸藩であり、幕末の混乱期に浅子は金蔵にある不良債権の束を見て危機感を募らせる。明治維新後の経済が混乱した時期には、同業の両替商が相次いで閉店に追いこまれるなか、浅子は金策に走りまわって店を倒産の危機から救った。生家・三井家の堅実な経営方針は、浅子のDNAにしっかり刻まれていたのだ。

「連続テレビ小説 あさが来た」より ©NHK

ドラマでは波瑠さんが演じるあさは、玉木宏さんが演じる白岡新次郎に嫁ぐ。家業に関心の薄い夫と、行動力が抜群のパワフルな妻。その対比がみごとにハマっていた。また、新次郎は道楽者に見えて、どんな危機に直面しても持ち前の柔軟さで妻をサポートするしなやかな人柄が魅力だ。ほかの女性になびかず一途にあさへの愛を貫き、子どもが生まれると「イクメン」となって彼女の仕事を支えるところも、現代の女性たちにとっては理想の男性像といえる。さらに、大河ドラマ『新選組!』(2004年放送)で土方歳三を演じた山本耕史さんが、大河ドラマとまったく同じ衣装をまとって、「待たせたな!」の決め台詞とともに店に金を借りに登場する場面も見逃せない。

朝ドラに出演した思い出と五代ロスを生んだ配役の妙

加島屋の経営を任された浅子は、商才を発揮し、福岡県飯塚市にあった炭鉱を買い取った。鉄道の時代となり、世界的に石炭の需要が高まったことに目をつけたのだ。しかし、採鉱が思うように進まず、まもなく炭鉱経営は苦境に立たされる。すると浅子は、自ら炭鉱に乗りこみ、気性の荒い坑夫たちと生活をともにしながら採掘を監督した。その懐には、常に護身用のピストルをしのばせていたというエピソードも残っている。こうした浅子の懸命な努力の結果、炭鉱は産出量が急増し、事業は成功を収めたのである。

ドラマでは、山崎銀之丞さんが演じる炭鉱の親分が、女性であるうえ炭鉱の知識がないあさに対し、当初は非協力的な態度をとる。しかし、あさの人柄や情熱に心を動かされ、徐々に打ち解けていく姿にホロリとさせられる。心憎いほど絶妙なストーリー展開だ。

「連続テレビ小説 あさが来た」より ©NHK

その後、浅子は加島銀行の設立や大同生命の創業に参加していく。また、女子教育の推進に貢献し、成瀬仁蔵の依頼を受け、日本初の女子大学校(現在の日本女子大)の創設を物心両面で支えた。浅子が生命保険や女子高等教育機関に着目したのは、女性の立場の向上や社会進出の機会を考えてのことである。一家の主が亡くなったとしても、生命保険があれば遺された家族が生活していけるし、高等教育を受ければ仕事にもありつけるからだ。

ドラマでは、九州の生命保険会社の社長役として、恥ずかしながら私も出演している(笑)。あさの銀行に宮根誠司さんと人力車で乗りつける場面では、私が降りやすいように車夫が肩を貸してくれたのが印象的だ。そんな隠れた気配りも、ぜひ画面で確認してほしい。

また、ビジネスのシーンではディーン・フジオカさんが演じる五代友厚が登場し、多くの女性たちを魅了したのは記憶に新しいところだ。五代は、あさへの想いを隠しながらも、実業家として奮闘する彼女を叱咤激励し、大きな心の支えとなった。ドラマで彼が亡くなると「五代ロス」という言葉も生まれたほどである。あまりの五代人気に、ドラマは脚本に手を加え、亡くなるタイミングを引っ張ったといわれる。私は期せずして、大河ドラマ『太閤記』(1965年放送)の織田信長役に抜擢された高橋幸治さんの人気がうなぎのぼりとなってNHKに多数のファンから「信長を殺すな」という投書が殺到し、本能寺の変のタイミングを延期させたというエピソードを思い出した。

「連続テレビ小説 あさが来た」より ©NHK

そんな五代ロスに陥った女性たちの心の穴を埋めたのが、瀬戸康史さんが演じた女子大学設立をめざす「ナルさま」こと成澤泉である。このドラマは、こうした配役も絶妙だ。

ドラマは主人公だけでは成立しない。周囲にも魅力的な登場人物が必要になる。なかでも前半で大活躍するのが、宮﨑あおいさんが演じるあさの姉・はつである。あさとは性格も生き方も対照的なはつがWヒロインとして存在したことで、視聴者はふたつの女性の人生を比較しながら見守ることができた。そして、姉・はつの奥ゆかしさや夫・新次郎ののんびりした感じが、あさのハツラツさを際立たせているのだ。

東京五輪の年に観ておこう 元気をもらえる名作ドラマ

女性の輝く姿を描いた『あさが来た』は、明るい未来を感じさせるドラマでもある。何十年後に観ても、多くの女性たちがこの主人公に共感できるだろう。

なにより、あさ(朝)が来たら新しい展開があるぞと期待感を含めたタイトルがいい。2020年の大河ドラマ『麒麟がくる』も同様で、穏やかな世の中に現れるという聖獣の麒麟を希望のシンボルに見立てた絶妙のネーミングである。

また『あさが来た』は、まるで大河ドラマのように歴史上の偉人たちが登場する点にも心をくすぐられる。先述の土方歳三や五代友厚をはじめ、大久保利通(柏原収史)、大隈重信(高橋英樹)・綾子(松坂慶子)夫妻、平塚らいてう(大島優子)などのほか、新旧の1万円札の肖像となる福沢諭吉(武田鉄矢)と渋沢栄一(三宅裕司)も登場しているのだ。

そのほか、あさが頻繁に口にする「なんでどす?」や「びっくりぽん!」の決め台詞の効果も絶大だ。「なんでどす?」にはなんにでも疑問を持ち、自分の頭で考えて答えを出そうとするあさの性分が、「びっくりぽん!」には驚いたときに発するあさの快活さが表現され、ドラマ全体を快活でテンポよく展開させている。

「連続テレビ小説 あさが来た」より ©NHK

不思議なもので、決め台詞が浸透すると、番組の人気に拍車がかかる。かつて私が司会をしていた番組『連想ゲーム』で、最終戦に「1分ゲーム」というのがあった。その時間がきたことを告げるベルが鳴るのだが、私は幼い姪っ子たちがベルのことを「リロリロリン」と呼んでいたのを思い出し、はからずも「リロリロリンが鳴りました」と言ってしまった。これが反響を呼んで決め台詞として定着したことで、番組の人気もより高まったと聞いている。現在においても、「ボーっと生きてんじゃねーよ!」の決め台詞で人気の番組『チコちゃんに叱られる!』が好例である。

私はほとんどの朝ドラを生活習慣として観ているが、『あさが来た』は五指に入る名作だと思う。なにより、元気がもらえるストーリーなのがすばらしい。2020年は、ちょうど東京オリンピック・パラリンピックが開催されるメモリアルイヤーでもある。「なにか日本が変わるぞ」というモチベーションを高めてくれる内容を秘めた『あさが来た』は、まさにこのタイミングで観るべきドラマだと言っても過言ではない。

松平定知(まつだいら さだとも)
元NHKアナウンサー。ニュース番組のほか、『紅白歌合戦』や『その時歴史が動いた』の司会などを務めた。連続テレビ小説『あさが来た』に富永巌の役で出演。

「連続テレビ小説 あさが来た」
放送日:2020年2月5日(水)放送スタート 月-金 朝8:15~ 2話連続
番組ページ:https://www.ch-ginga.jp/feature/asagakita/


 

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