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【インタビュー】松平定知が語る大河ドラマ「平清盛」の魅力

【インタビュー】松平定知が語る大河ドラマ「平清盛」の魅力

今まで天下の大悪人として描かれてきた平清盛を、先見的で躍動感あふれる男として壮大なスケールで描いた大河ドラマ「平清盛」。今回は、「その時、歴史が動いた」のキャスターでも知られる元NHKアナウンサーの松平定知氏にドラマの魅力を語ってもらった。

イチかバチかの人生を歩む平清盛の生涯を描いた名作

― 大河ドラマ『平清盛』の全体を通しての感想をお聞かせください。

すごく充実した内容でした。平安時代末期の話となると、だいたいは源氏を中心に据えるものですが、平清盛を主人公にしようという発想がまずめずらしいですよね。おもしろいことに清盛は1118年に生まれ、1181年に亡くなっていて、その数字が表すとおり「イチかバチかの人生」でした。大河ドラマ『平清盛』は、そんな波瀾万丈な男であり、毀誉褒貶の激しい男を主人公にしたうえ、あまり知られていない若かりし日の清盛の姿を松山ケンイチさんがワイルドに演じていたのが新鮮でした。当時は武士の地位が確立する前の時代で、武士は土と汗にまみれながら「朝廷や貴族の番犬」として働いていて、第1回の冒頭で源頼朝が「平清盛なくして武士の世はなかった」と語っていたのが、まさに的を射ていると思います。

― 話題となった画面の汚さや低視聴率などについては、どのように感じられていましたか。

良くも悪くも話題性に事欠かないドラマでした。「画面が汚い」という一部の批判がありましたが、当時の武士たちの生活環境や着物がそんなにきれいなわけがなく、リアルさを追求した制作サイドの姿勢に好感が持てます。ドラマのコンセプトが「たくましき平安」であり、清盛を中心とする当時の人びとを、たくましくリアルに描くうえで必要な演出だと理解していますし、視聴率が低かったなんて縮こまる必要はまったくないほど出来はすごく良かったと思います。今回のCS初放送では「汚いと話題になった画面はこれか」と追認する楽しみもありますし、ひと桁視聴率の回なんて、どんな内容だったのかもう1度見てみたいくらいです。

― 印象に残っている内容を教えてください。

主人公の役どころは、ふつうかっこよく描きます。しかし大河ドラマ『平清盛』は、清濁あわせのむというスタンスで、正々堂々と歴史と向きあっていました。また、平安貴族の男色までをも描いていました。そういった意味でも画期的な内容ですし、歴史好きの間で評価されているのもわかる気がします。

脚本もよくできていました。さりげなくネタを仕込んでおいて、忘れたころに「見続けた視聴者へのご褒美」という感じで伏線を回収するので、ドラマ全体を見直したくなる構成になっています。たとえば、清盛が誰の子かという第1回に仕込まれた伏線が回収されたのは第34回です。この清盛が白河法皇の落胤だという設定にNHKが舵を切ったことは画期的で刮目しました。白河法皇はかなりの自由人で、孫(鳥羽天皇)の妻に手を出して崇徳天皇が生まれるなど、そのドロドロとした人間関係もおもしろさのひとつだといえます。

― 本作は、登場人物が多く、キャストすべてが主役級の方々でしたが、特に注目したキャストはいらっしゃいますか。

伊東四朗さん演じる「白河法皇」は、見ていて本当にこういう人だったのかな、という感じがしましたね。伊東さんだけでなく、天皇家を演じられた方々は、みんなイイ味を出していました。

― 源平時代の魅力を教えてください。

源平時代は、貴族による世襲制ではなく、本当に実力のある人がトップに立つ枠組みが構成されていった時代の転換期です。だからこそエキサイティングな出来事が次々と起こり、多くの人たちの心を惹きつけるのだと思います。また、源平時代には「時代を生き抜くためのヒント」が詰まっていて、たとえば徳川家康は「前の政権のDNAを残すと、わが身の破滅につながる」ことを学び、大坂夏の陣における豊臣秀頼の自死につなげました。

私はいま、大学で『平家物語』を朗読しながら学ぶという授業を受けもっています。すると、学生たちが「おもしろい!」と目をらんらんと輝かせているわけです。源平時代は、それくらい興味をそそられる題材であり、それを忠実にドラマ化したのが『平清盛』なのです。

― 『平清盛』は2012年放送当時、「Twitterトレンドのドラマ部門ナンバー1」となった実績があり、若者にも好評を得ているドラマなのですが、一般的には歴史というととっつきにくい若者が多いと思います。そんな若者に向けてドラマを観るポイントを教えてください。

戦ひとつひとつに人間模様やドラマがあります。例えば壇ノ浦の戦いでは、潮の流れが速くまともに漕いでいられないと感じた義経は、「八艘飛び」といって、次々に船を乗り移っていくことで前に進んでいきました。また、戦のセオリーから言うとやってはいけないことではありますが、船頭を討って戦局を混乱させたところなどを見ると、やはり義経は「戦の天才」だと感じますね。
今いろいろなゲームが流行っていますが、その中での戦い方のひとつとして、屋島や壇ノ浦の戦いを見るとおもしろいと思います。

松平定知(まつだいら さだとも)
プロフィール:1944年11月7日生まれ。元NHKアナウンサー。徳川家康の異父弟を祖とする伊予松山藩久松松平家の分家の子孫。「その時、歴史が動いた」のキャスターでも知られる歴史通。

大河ドラマ「平清盛」

放送日:2017年2月20日(月)スタート 月-金 午後2:00~ ※リピート:深夜0:00~
番組ページ:http://www.ch-ginga.jp/feature/kiyomori/

【ストーリー】
元永元年(1118年)、京都。貴族の世は乱れ、武家である平氏の嫡男、忠盛(中井貴一)も朝廷に命じられるまま盗賊の捕縛などをしていた。ある日、忠盛は貧しい身なりの女性と出会う。舞子(吹石一恵)というその女性はかつて御所に出入りしていた白拍子で、時の最高権力者、白河法皇(伊東四朗)の子を身ごもっていた。忠盛はお腹の子を殺されることを恐れ逃げてきた舞子をかくまう。忠盛の家の納屋で、舞子は出産。その赤ん坊こそが後に平家の棟梁となる平清盛(松山ケンイチ)であった。

 

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