江戸時代の代表的な文化としてあげられる浄瑠璃や歌舞伎。歌舞伎は現在でも、歌舞伎役者がテレビに出演するなど民衆の支持を得ていますよね。時代を超えて受け継がれる文化である浄瑠璃や歌舞伎の世界で、現在までに300年以上も上演されている大ヒット作を飛ばした人物、それが近松門左衛門です。
今回は、近松の略歴からこの時代の浄瑠璃と歌舞伎の概要、近松の代表作についてご紹介します。
近松門左衛門と浄瑠璃・歌舞伎
江戸時代に活躍した浄瑠璃・歌舞伎作家の近松門左衛門。日本史上でも有名な作家ですが、その経歴はあまり知られていないのではないでしょうか。彼の略歴と当時の浄瑠璃・歌舞伎について見ていきましょう。
近松門左衛門の略歴
近松は越前国、現在の福井県の武士の家に生まれました。父が吉江藩を辞して浪人として京都に移り住んだので、近松も京都で公家に仕える生活をします。この時代の随筆家で歴史家でもある神沢杜口(かんざわとこう)の『翁草』によると、近松は公家に仕えていた頃、宇治加賀掾(うじかがのじょう)という京都で評判の浄瑠璃語りのもとに行く機会があったそうです。このことが浄瑠璃を書くきっかけになった一因とされています。やがて近松は公家に仕える仕事を辞め、人形芝居の一座を立ち上げた加賀掾のもとで浄瑠璃を書くようになり、徐々に名前が知られるようになりました。
当時の浄瑠璃と歌舞伎
浄瑠璃と歌舞伎はそれぞれ長く続いていた文化でしたが、時代とともに変化していきました。近松の前の時代の古典的な浄瑠璃は古浄瑠璃と呼ばれ、物語性にそこまで富んでおらず、宗教色が強いものでした。近松が初代・竹本義太夫のために書いた『出世景清(しゅっせかげきよ)』は、それまでの浄瑠璃の概念を突き崩す演劇性に富んだもので、これが当流浄瑠璃(新浄瑠璃)の始まりとされています。その後、近松は傑作『曽根崎心中(そねざきしんじゅう)』を書き上げ、時代もの中心だった浄瑠璃に世話物という新たなジャンルを生み出しました。
また、近松は浄瑠璃だけでなく、歌舞伎の作者としても優れた作品を書いています。特に、坂田藤十郎(さかたとうじゅうろう)という名優のために多くの作品を提供し、「元禄歌舞伎」と呼ばれ一時代を築いた歌舞伎の人気を支えました。
近松の出世作!『出世景清』
鎌倉時代を舞台とした人形浄瑠璃の『出世景清』は、新しい浄瑠璃としてもてはやされました。この作品について掘り下げてみましょう。
出世景清の概要
『出世景清』は享保2年(1685)大坂竹本座初演で、のちに歌舞伎化されるほど人気になりました。
この作品は室町時代の幸若舞(こうわかまい)『景清』をモチーフとし、平家滅亡後の鎌倉時代初期、平家側だった武士の悪七兵衛景清が、仇である源頼朝を討ち滅ぼすために苦悩する物語です。この題材は、能楽などでも取り上げられていましたが、近松は景清や阿古屋など登場人物の人間的な葛藤を取り出して、その悲劇を鮮やかに描いたことから評価されるようになりました。
近松が開いた当流浄瑠璃の世界
『出世景清』の演劇性はかつての浄瑠璃にはなかったもので、この作品をもって新しい浄瑠璃が始まったと評価されています。近松はそれまでの素朴な力強さを魅力としていた古浄瑠璃に対して、物語の面白さをもって観客に訴えかけようとしました。その試みは見事に的中し、浄瑠璃はより人間ドラマに即した文芸へと姿を変えていったのです。
代表作といえば『曽根崎心中』
近松の代表作品として名高いのが『曽根崎心中』です。この作品は現代までその名が知られる程有名ですが、当時の人々にも大きな影響を及ぼしました。近松と『曽根崎心中』について見ていきましょう。
曽根崎心中の概要
『曽根崎心中』は哀しい恋の物語です。醤油屋で丁稚奉公する徳兵衛は、恋仲だったお初と偶然の再会を果たします。しかし、徳兵衛はお初を愛していたにもかかわらず、奉公先の主人である叔父にむりやり結婚させられそうになり、大いに困ってしまいます。叔父から自分の継母に入れられた結納金をやっとの思いで取り返したものの、そのお金を貸した友人・九平次から詐欺師呼ばわりされてしまい、窮地に追い込まれました。この状況で徳兵衛は自らの死をもって自身の潔白を証明するしかないと考え、その思いをお初に打ち明けます。お初は徳兵衛と共に死ぬことを覚悟し、二人とも自害してしまうというストーリーです。
社会現象になった“心中”
この悲劇の物語は当時の人々の胸を強く打ちました。その結果、困ったことに恋仲の男女が世をはかなんで、お互いの愛を確かめ合うために心中することが社会現象となってしまったのです。作品の影響で増え続ける心中事件を防ぐために、幕府が心中禁止令を出すほどの騒ぎになってしまいました。この他にも、近松作の心中物には『心中天網島(しんじゅうてんのあみじま)』などがあります。
歌舞伎演目になった『国性爺合戦』
近松の作品には人形浄瑠璃から後に歌舞伎になったものもありますが、その中でも有名なのが『国性爺合戦(こくせんやかっせん)』です。
国性爺合戦の概要
『国性爺合戦』は江戸時代初期、中国人の父と日本人の母を持つ鄭成功(ていせいこう)が台湾を拠点に明朝の復興運動を行ったことを題材としています。鄭成功をモチーフとした和藤内(わとうない)の日本と明での大活躍を描いており、韃靼(だったん)=タタールとの戦いなども描かれました。国性爺合戦のタイトルは、鄭成功が国性爺と呼ばれていたことに由来します。
歌舞伎の世界でロングヒット!
当時、日本国内のことをモチーフにした演劇が多かった中で、隣国である中国に題材を得たことや、中国人と日本人のハーフを主人公にしたことは、鎖国下の日本において大きな反響を呼びました。また、荒事の演出も優れており、泰平の世になった当時の日本が刺激に満ちた娯楽にどん欲だったことが想像できます。民衆から人気を得たこの作品は、初演から17カ月続演という脅威のロングヒットとなりました。
江戸時代の文化に触れてみよう
江戸時代に作家として活躍し、浄瑠璃・歌舞伎の世界で新しい境地を開いた近松門左衛門。
竹本座をはじめ、京都の都万太夫座(みやこまんだゆうざ)や宇治座などの座本と組んで発表した彼の作品の数々は、それまでの常識を打ち破り、多くの庶民から支持を得ました。ご紹介した作品以外にも『女殺油地獄(おんなごろしあぶらのじごく)』など多くの作品が現在まで語り継がれています。近松作品をきっかけに、改めて江戸時代の文化や当時の世相に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
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