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【孔明から曹操や司馬懿の時代へ?】「三国志 Secret of Three Kingdoms」の見所はここだ!

漢の献帝になり替わる劉平と、皇后を演じ続ける伏寿。(「三国志Secret of Three Kingdoms」より)

チャンネル銀河で2020年3月10日(火)から放送をスタートした、中国歴史ドラマ『三国志 Secret of Three Kingdoms』。“漢王朝最後の皇帝・献帝には双子の兄弟がいた”という斬新な設定で描かれる本作をより楽しんでいただけるよう、過去の「三国志ドラマ」の潮流とともに、物語でも描かれる「曹操暗殺計画」についてご紹介したい。

中国で制作された「三国志ドラマ」の潮流

三国志を題材にしたテレビドラマは、これまで本場中国で何本も作られてきた。香港や台湾で1950年代から映像作品の制作が始まり、大陸でも1970年代から始まり、さらに1980年代から日本にもそれらが一部輸入され、販売されてきた。

三国志と長編ドラマは相性がいい。2時間の映画では、ごく一場面しか描けないからだ。大河ドラマを2時間程度に短縮しても面白くないのは明白。栄枯盛衰の物語をどっしり腰を据えて楽しむには、やはり長編が最適なのである。

中国ドラマは日本の大河ドラマよりも長い。原作のほぼ全編を映像化した『三国志演義』(1994年/原題:『三国演義』)は84話、そのリニューアル版である『三国志 Three Kingdoms』(2010年/原題:『三国』)は95話という長編だ。

そのほかにも『三国志 諸葛孔明』(1985年/原題:『諸葛亮』)、『三国志 関公』(2004年/原題:『関公』)など、ひとりの人物にスポットを当てた作品もあった。

『三国志 諸葛孔明』などは現地での放送当時、「通りから人が消えた」といわれたほどの人気を博したという逸話も残っている。映像は現在の作品のようにきれいではないが、今見ても十分に楽しめる作品である。

こうしてふり返ってみると、過去の作品には諸葛亮や関羽といった、一般の視聴者に馴染みのある人物を主役とする作品が多かった。

しかし、どうやら近年その様相が変わってきている。たとえば2017年に制作されたのが『三国志〜司馬懿 軍師連盟〜』(原題:『大軍師司馬懿之軍師連盟』)で、名前のごとく司馬懿を主役としたものだ。

日本でも『三国志演義』のファンが『正史』に親しむのと同様、中国でもこれまでの演義を題材とした作品よりも、曹操や司馬懿など、これまで「敵」として描かれがちだった人物にスポットが当たっている。

2010年の『三国志 Three Kingdoms』で、原作をモデルにした作品は、ほぼ完成を見た観がある。よって、それ以降は切り口を変えた作品が作られる傾向にあるのだろう。つまり、普通の三国志演義に飽きちゃった人向けに、どんどんマニアックになっているということだ。

そうした流れを受けて制作されたのが、現在、チャンネル銀河で放送中の『三国志 Secret of Three Kingdoms』(2018年/原題:『三国機密之潜龍在淵』)である。これは、簡単にいえば曹操や司馬懿を中心とした漢の宮廷抗争劇を描いた作品だ。

新しい三国志「Secret of Three Kingdoms」の注目点

人物相関図を見ても分かるとおり、三国志作品でおなじみの諸葛亮や関羽の名前がない。曹操はいるけれども主役ではない。司馬懿や、その幼なじみの劉平が主役なのである。

「三国志Secret of Three Kingdoms」より

後漢の皇帝といえば、おなじみの献帝(劉協)が主役かといえば、さにあらず。劉協は曹操に許都へ連れてこられてすぐに病死し、双子の弟(劉平)が皇帝になり替わるというのが『三国志 Secret of Three Kingdoms』独自の設定。いわば「IF」ストーリーであり、原題が『三国機密』たる所以である。

本当の皇帝・劉協は密かに世を去り、みなが「献帝」として崇めているのは、その弟……。登場人物たちの多くが、その事実を知らないまま物語は佳境に入っていく。はたしてどんな結末が訪れるのか。

もちろん、筋書きはフィクションでありながら、大枠は三国志の時代の流れに沿って進んでいく。官渡の戦いも行なわれるし、そのあたりで郭嘉が世を去るし、荀彧の漢室への忠臣ぶりも史実の通り。よって従来のファンの方も安心して見ていただける内容である。……というより、三国志を全く知らない方はストーリーが理解しづらいかもしれない。

正史に確認できる「曹操暗殺計画」の決着は?

彼が本当の献帝ではないことに、曹操(左)は気付くのだろうか?(「三国志Secret of Three Kingdoms」より)

そして本作でも終盤に描かれ、ハイライトのひとつとなるのが「曹操暗殺計画」である。正史『三国志』の記述によると、曹操は2回、暗殺の危機に見舞われている。

1回目は西暦200年。献帝の側近・董承(とうじょう)が、种輯(ちゅうしゅう)、王子服、劉備など数名の同志を集めて曹操殺害を計画した。これは曹操の権力増大を恐れる献帝の密命であったという。

ところが、この計画は事前に曹操に察知されてしまう。董承とその一派は一族もろとも処刑された。献帝の妃・董貴妃(董承の娘)は献帝の子を妊娠中だったが、やはり処刑された。先に挙げた通り、劉備も董承の同志に引き込まれていたが、いち早く都を脱出して徐州へ逃げたので無事だった。しかし、これで一件落着とはいかず、計画はその後も尾を引く。

董貴人が殺害されたとき、献帝の妻・伏寿(伏完の娘)は恐怖し、父の伏完に曹操の排除を提案した。しかし、伏完はそれを実行できないまま209年に病死。それから5年が経った214年、伏寿の過去の企みが曹操にばれてしまう。曹操は激怒して伏寿を監禁した。幽閉して殺害させたとも伝わる。

小説『三国志演義』では、この騒動のときに伏寿の書簡を伏完へ届ける役回りとして、宦官の穆順(ぼくじゅん)が登場するが、書簡の中身を曹操に見られ処刑されてしまう。

献帝の妻・伏寿。正史では「曹操暗殺計画」が明るみになり曹操に監禁されてしまう(「三国志Secret of Three Kingdoms」より)

2回目の「曹操暗殺計画」は218年。首謀者は金禕(きんい)という人物だ。彼は耿紀(こうき)、韋晃(いこう)とともに献帝に仕える忠臣で、曹操の専横ぶりに憤っていた。3人は吉本(きつほん)と、その息子たち(吉邈・吉穆)を誘って曹操暗殺の計画を練る。

この時期、曹操は許都ではなく、鄴(ぎょう)の銅雀台にいることが多かった。許都の留守を預かっていたのは王必(おうひつ)だった。金禕たちはまず許都の王必を襲い、献帝を奪って荊州の関羽に寝返ろうという計画を立てて実行する。

ある夜、金禕らは許都へ攻め寄せ、王必に矢傷を負わせたが逃げられる。その後、王必が反撃に転じ、この乱を鎮圧した。金禕、吉本らは敗れて捕らわれ、処刑された。この乱は、小説『三国志演義』では吉平(きっぺい)が曹操に毒を飲ませようとして、それがバレて自害するという流れになっている。こうして、いずれも「曹操暗殺計画」は失敗に終わっている。

漢王朝と曹操の対立を描いた映像作品はいくつかある。実写映画では『曹操暗殺・三国志外伝』(2014年/原題:『銅雀台』)が、直接的に「曹操暗殺計画」を描いた作品として記憶に新しい。

本作「三国志 Secret of Three Kingdoms」でも、漢王朝と曹操の勢力との対立が物語の肝となっている。そうしたなかで、曹操の振る舞いや、彼と敵対する人物がどのような行動に出るのか。そして、どんな計画が実行されるのか。心待ちにしながら楽しんでいただきたい。

文・上永哲矢


「三国志 Secret of Three Kingdoms」
放送日時:2020年3月10日(火)放送スタート 月-金 夜11:00~
リピート:2020年3月11日(水)放送スタート 月-金 午前9:30~
番組ページ:https://www.ch-ginga.jp/detail/secretofthreekingdoms/
出演:マー・ティエンユー(劉平)、エルビス・ハン(司馬懿)、レジーナ・ワン(伏寿)、ドン・ジェ(唐瑛) ほか
制作:2017年/全54話/字幕/原題:三国機密之潜龍在淵

画像:「三国志 Secret of Three Kingdoms」©Chinese Entertainment Tianjin Ltd.


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