【無類の女好きだった!?】切れ者 or 悪者?室町幕府の立役者・高師直

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日本史に登場する“悪者”というと、みなさんは誰をイメージするでしょうか。古代にさかのぼれば、大化の改新で暗殺された蘇我入鹿。戦国時代では東大寺大仏殿を焼き打ちした松永久秀。江戸時代だと忠臣蔵の仇役でおなじみの吉良上野介など、各時代の有名人が浮かびますが、日本の中世を彩った“悪者”としてあげられるのが、高師直(こうのもろなお)です。最近の中世ブームにより名が知られるようになった師直がどんな人物だったのか、ご紹介したいと思います。

足利尊氏とされてきた「騎馬武者像」は、
近年では高師直、もしくは子の師詮という説もあるとか。
(京都国立博物館蔵)

新政府樹立に大きく貢献

足利家の執事職を代々務めてきた高一族に生まれた師直は、鎌倉時代後期から南北朝時代に、足利尊氏の側近として活躍しました。後醍醐天皇による討幕戦争においては、尊氏の弟である直義とともに、足利軍を六波羅探題攻略の主力に転じさせ、建武新政権の樹立に大きく貢献しています。

ところが、新政権が武士や民衆からの信望を失っていくのをいち早く察知するや、“切れ者”っぷりを発揮した師直は、新たな政権の樹立を目指すため暗躍。尊氏を頂点とする室町幕府誕生に、大きく寄与することとなりました。

建武の新政を行った後醍醐天皇。
足利尊氏らの離反にあい、南朝政権を樹立。

史上最大の兄弟ケンカ「観応の擾乱」

その功績から将軍家の執事という、室町幕府ナンバー2の実力者となった師直は、絶大な権勢をふるいます。さらに師直と、その弟である師泰に率いられた強力な高一族の軍団が、その権力を支えました。南北朝の争乱において高一族の強さはずば抜けており、楠木正成の息子たち(楠木正行・正時)をはじめ、南朝の有力武将を次々と討ちとっていきました。

師直率いる足利軍と、楠木正行らが戦った「四条畷の戦い」(歌川国芳画)

こうした軍事的な貢献により、高一族は幕府内に確固たる地位を築いていきますが、その専横を快く思わなかったのが足利直義です。

草創期の室町幕府は、将軍尊氏と、政務を取り仕切る直義による二頭政治が行われていましたが、兄弟双方を囲む支持者の対立が次第に深まっていきます。特に、師直と直義は性格的に正反対だったことも相まって、抗争は激化。当時、対立していた南朝との関係もからんで、争乱は観応期(1350~52)を中心に全国へと広がっていきます。

これが、史上最大の兄弟ゲンカともいわれる「観応の擾乱」で、最終的に、師直・師泰の死、直義の毒殺によって幕を閉じることとなります。

足利尊氏の弟・直義。

無類の女好きだった!?

ちなみに師直に、“切れ者”ではなく“悪者”のイメージを定着させるきっかけとなったのが『太平記』です。この中に描かれた師直は無教養な好色漢で、まさに“ゲスの極み”。無類の女好きとして語られる有名なエピソードが、出雲国と讃岐国の守護・塩冶高貞の妻への横恋慕です。結果的に、相手からはあっさり拒絶されてしまうのですが、これに怒った師直は、高貞に謀反の罪を着せ、塩冶一族を滅ぼしてしまいます。

また、このエピソードを取り入れて人気を博したのが、江戸時代に誕生した人形浄瑠璃・歌舞伎の演目『仮名手本忠臣蔵』。元禄時代にあった赤穂事件を『太平記』の設定に仮託し、浅野内匠頭を「塩谷高貞」、吉良上野介を「高師直」に置き換えた本作は、当時、大ヒット作となったことから、「師直=悪者」というイメージが完全に定着してしまいました。

『仮名手本忠臣蔵』の「大序」。
高師直と塩冶判官の妻かほよ御前。(歌川国貞画)

やはり悪者?非常に無残な最期

なお、師直が亡くなったのは、正平6年/観応2年(1351)2月26日のこと。直義・南朝方に敗れた尊氏は、師直・師泰の出家を条件に和睦を結びますが、師直兄弟はその護送中、直義派の上杉能憲らによって武庫川畔(現兵庫県伊丹市)で殺されてしまいます。積年の恨みを晴らすかのように、師直の首は切り落とされ、胴体は川に投げ捨てられるという、非常に無残な殺され方だったと伝えられています。

実際の師直は、確かに女好きの一面はあったものの、和歌や書を親しむ教養人だったといわれます。また近年では、権威におもねることなく、自己の信念を貫き通した“ばさら大名”という評価もなされています。
ただ、火のないところに煙は立たず。師直も自分の立場をわきまえ、もう少しちゃんと行動していたら、“悪者”ではなく“切れ者”として後世に名を残していたのではないでしょうか。

(スノハラケンジ)

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