チャンネル銀河で放送中の韓国歴史ドラマを100倍楽しむために知っておきたいトリビアを韓国取材歴12年の編集者・露木恵美子さんが、5つのポイントでご紹介!第3弾は「薯童謠 ソドンヨ」を取り上げます。
ポイント① イ・ビョンフン監督が教えてくれた百済時代の面白さ!?
韓国時代劇というと李氏朝鮮王朝の話が多く、いつの間にか、韓国の人よりも李氏朝鮮王朝歴代王の名前を知っていたり、歴史的大事件について覚えていたりする自分にビックリすることがあります。これも「宮廷女官~チャングムの誓い」と出会ってから。その面白さを教えてくれ、韓国の歴史に興味を持たせてくれたイ・ビョンフン監督のおかげです。「どこまで本当なのか?」と悩むことも多いですが、監督には感謝したいと思います。
イ・ビョンフン監督のほとんどの作品が李氏朝鮮王朝を描いたものでしたが、「薯童謡-ソドンヨ」(05年)には、百済の王子と新羅の姫を謡った童謡「薯童説話」を基に、TVドラマでは描かれることがなかった百済を舞台に、監督初の試みとして百済時代のドラマを作りました。
「宮廷女官 チャングムの誓い」には足りなかった恋愛の要素をもっと盛り込みたく、同作の脚本家キム・ヨンヒョンと再びタッグを組みました。そういった経緯もあり、やたら幼いころから心を惹かれあう身分の違う男女の子どもたちを描いた作品は、韓国版「ロミオとジュリエット」と一言で紹介されてしまうことも多々ありました。
しかし、陰謀と策略がうごめく宮中の権力争いに、百済、新羅の間で繰り広げられる国と国との争い、さらに百済の科学技術力については、思わず「素晴らしい」と画面に向かって言ってしまうようなエピソードもあり、興味深いものとなっています。
また百済は、飛鳥時代の日本とは深い関わりがあり、聖徳太子とも交流がありましたが、ドラマの中のセリフで聖徳太子の名前や、聖徳太子の肖像画を描いた!?と「日本書紀」で伝えられている阿佐太子(アジャテジャ)も登場。日本人にもなじみやすいネタも盛り込まれたストーリーが展開しています。
思わず「素晴らしい」と言ってしまう科学技術の一つに、病気に苦しむ百済王のためにオンドル(床暖房)を開発するというエピソードがありました。百済時代の革命的開発だったオンドルは、今では日本でもおなじみの暖房システムですが、実は、百済時代に飛鳥時代の日本に渡った百済出身の人もオンドルのある家に住んでいたそうです。
しかし、なぜかその当時の日本では受け入れられなかったようです。ソウル市内にある王宮を見学したときに、ガイドさんが「この煙突はオンドルに使われたものです」と「薯童謡-ソドンヨ」のオンドル開発のエピソードを話はじめた時には、「李氏王朝時代よりももっと昔に開発されたのか!」と驚くばかりでした。
この話を韓国人歴女の友達にしたら、「今度、カジノで有名なホテル、シェラトングランデウォーカーヒルの裏山にある阿且山城(アチャサンソン)で発掘されたオンドル遺構を見に行こう」と誘ってくれました。その遺構は百済時代のものらしいです。
こうやって、イ・ビョンフン監督の時代劇は、どの時代であろうと、「知りたくなる」「調べたくなる」といった好奇心をくすぐる要素が満載。「嘘だろう!!!」と思うこともたくさんありますが、ざっくりとした韓国の歴史を知ることができるのも彼の作品の魅力です。「薯童謡-ソドンヨ」には、百済時代の歴史やその面白さが溢れています。
ポイント② 時代劇の見どころは俳優たちの挑発と目力
韓国の時代劇では、男性主人公の髪型がロングの場合が多いようです。そしてそれが意外と萌えポイントでもあったりします。「トキメキ☆成均館スキャンダル」(10年)のユ・アイン、「王女の男」(11年)のパク・シフ、「ペク・ドンス」(11年)のチ・チャンウクとユ・スンホ、「善徳女王」(09年)のキム・ナムギル、チュ・サンウク、「イルジメ一枝梅-」(08年)のイ・ジュンギ、萌えと言ったら失礼になるかもしれませんが、「太王神記」(07年)のペ・ヨンジュン、と、名前をあげだしたらきりがないぐらい、たくさんの俳優が長髪で登場しているのです。
前髪ではっきりと見えなかったりする目や、片方の目は前髪に隠れ、もう片方の目だけで獲物を狙らったり。一歩間違えるとそのモサっとしたその髪型は、汚らしくも見えますが、そんな髪型が強さや鋭さを表すほか、寂しさをも表していて、時にはセクシーに感じることもあるのです。普段、見慣れていないから、最初は、「え?」と思うかもしれませんが、ドラマを見ていると、すっかり俳優たちのその新たな魅力にハマってしまうのです。もはや、これは時代劇の見どころのひとつといっても過言ではないでしょう。
「薯童謡-ソドンヨ」(05年)でも主人公チャンを演じるチョ・ヒョンジェとチャンの恋敵で技術者としてもライバルのサテッキルを演じたリュ・ジンが長髪で登場。凛々しくてハンサムな顔立ちにさらに華を添えているような感じです。天の峠(ハヌルチェ)学舎で技術開発し、実は王族と貴族という二人は、ちょっと品のあるようにも見えますね。
そんな姿に萌え萌えしていたころ、チョ・ヒョンジェにインタビューする機会をいただきました。「薯童謡-ソドンヨ」ではなく、某作品のインタビューでしたが、「薯童謡-ソドンヨ」のチャンのことばかり考えて、その日に挑んでしまいました。実際に会ってみると、現代の格好をしていたためか、ちょっと違う人に見えちゃいました(笑)。
インタビューをしてみて、とても静かで、じっくりと質問を考えながら答える好青年だなという印象が残っています。すごい目力もあるなと思いました。その後、某作品の監督にもインタビューをしたのですが、「どうしてチョ・ヒョンジェに出演をオファーしましたか?」と聞いてみると、「目力ですよ」と。彼と出演の交渉をしようと、某TV局の食堂で待ち合わせをしたところ、「チョ・ヒョンジェが食堂に入ったのがわかるぐらい、その場がぱっと明るくなり、遠くから見てもすごい目力を持っていたことにビックリした」とのことでした。
>改めて考えてみると目力のある俳優が長髪にして時代劇に出演していると注目してみてしまうような気がします。「薯童謡-ソドンヨ」でのチョ・ヒョンジェは、常に真剣で凛とした時に見せる鋭い眼光と、ソンファ姫を見つめる時の優しい眼差しが印象的です。
ポイント③ 時代劇は長髪の美男子もいいけど美女たちもオススメ
韓国の時代劇は、ストーリーや時代背景はもちろんですが、出演している俳優たちの現代劇とは全く違う姿も楽しめます。格好よく変身した若手男性俳優にもビックリし、目が行きがちですが、時代物のコスチュームに身をまとった女優たちのその美しさも目を見張るほどです。「薯童謡-ソドンヨ」にもたくさんの美人女優が登場しますが、ここでは3人に注目したいと思います。
一人目は、ちょっとしか登場しませんでしたが、主人公チャンの母親ヨンガモを演じたイ・イルファです。百済27代・威徳王の下で踊り子として働いていたというところからして、美しいということがわかると思います。劇中では王に見初められ、一晩を共にしてしまい、チャンを授かってしまいました。
役柄ごとに違った一面を見せてくれた彼女は、様々なTVドラマに出演し、現在中堅女優として活躍しています。セクシー史劇として話題となった「シークレット・ルーム 栄華館」(07年)の栄華館で女妓を指導する女将の姿も美しくてオススメです。
もう一人はもちろん主人公の一人で新羅のソンファ姫を演じたイ・ボヨン。ソンファ姫は幼少のころから男勝りなおてんば娘で、それにお手上げだった真平王によって、お寺に預けられていましたが、後に、宮中に戻り髪型も整え、派手な色の衣装で登場しますが、「やっぱり綺麗!」と思ったものでした。そう思うのも当然かもしれません。
彼女は、00年にミス・コリア大田・忠南代表に選ばれたほどの美貌の持ち主なのです。その彼女が芸能活動を開始したのは、02年のCM出演から。そして数々のTVドラマに出演した後、ウォンビン主演の映画「マイ・ブラザー」(04年)で、清純なその姿が男性ファンの心をわしづかみにしました。同じ年にオンエアされたTVドラマ「ラストダンスは私と一緒に」では、すごい悪女を演じていたのを記憶しています。
その後、「薯童謡-ソドンヨ」に出演し、主役を張れるスターへと成長していきました。韓国の女優は悪女を演じると後に飛躍するようです。また、今韓国では、結婚している女優が大活躍して話題になっています。彼女もその一人として、韓国のエンタメ界を賑わせています。
最後の美女は、主人公チャンが所属していた王直属の研究機関である大学舎(テハクサ)の一員ウンジンを演じたク・ヘソンです。彼女は役どころが女性技術士ということで、オシャレ感は全くないのですが、目がパッチリとした人形のような顔立ちが、魅力がない衣装を着ていても華やかに見せてくれています。
一般的には、「19歳の純情」(06年)で注目され~という紹介のされ方が多いですが、「薯童謡-ソドンヨ」を見た人なら、本作で~といいたくなるほど、脇役にもかかわらず、元気いっぱいで全力投球な姿が印象的でした。母親や男性技術士とのスピーディな会話は、「花より男子~Boys Over Flower」(09年)のクム・ジャンディを演じていたときのような感じでした。
「薯童謡-ソドンヨ」では、チョ・ヒョンジェやリュ・ジンといった男性俳優もいいけど、強さも兼ね備えたこの3人の美人女優たちも、ぜひチェックして見てほしいです。
ポイント④ 「善徳女王」「階伯(ケベク)」と比較しても楽しさが倍増
高句麗、百済、新羅の三国時代は、4世紀ごろから7世紀ごろまで続き、この三国時代の終わりをドラマの背景として描いたのが、「薯童謡-ソドンヨ」(05年)、「善徳女王」(09年)、「階伯(ケベク)」(11年)です。国は違えど同じ時代の物語には共通点がたくさんあります。どのドラマも史実に基づいたエピソードをうまく混ぜながらストーリーを展開させているので、実在する共通の人物が多く登場しているのです。
「薯童謡-ソドンヨ」は、童謡をモチーフに百済の王子チャン(後の武王)と新羅のソンファ姫の恋愛劇。ソンファ姫は、新羅第26代新羅・真平王の三女で、3姉妹の中でも一番美しかったといわれています。だから彼女を溺愛する王を見た長女のチョンミョン姫は、妹に嫉妬し自分の立場が脅かされる危ういと心配になり警戒していきます。
一方、百済最後の将軍ケベクの生涯を壮大なスケールで表現した「階伯(ケベク)」では、チャンが百済第30代・武王となり、ソンファと結婚してしばらく経ってから話が始まります。そして本作では、王の第1夫人でありながらも、新羅出身ということもあって、第2夫人のサテク妃や重臣たちから命を狙われる存在でした。新羅初の女王を描いた「善徳女王」では、「薯童謡-ソドンヨ」の脚本家キム・ヒョンヒョンが担当していましたが、ソンファ姫が真平王の実の娘かどうか定かではないため、描かなかったそうです。
「善徳女王」といえば、ソンファ姫の2番目の姉に当たるトンマン姫が女王になるまでを描いた歴史大作。ここでトンマン姫は、長女チョンミョン姫の双子の妹という設定で、姉の力を借りながら王座を狙っていきます。新羅側から見た百済との戦いも迫力あって見ていて興奮する一作です。この戦いで活躍する武人青年組織・花郎(ファラン)たちの格好よさが話題にもなりました。カリスマ溢れた名将キム・ユシンを演じたオム・テウンは、幅広い視聴者層に愛される俳優となり、その後も大活躍しています。花郎は、「薯童謡-ソドンヨ」でもおなじみで、チャンのライバル、サテッキルはその一員でした。真平王から花郎をまとめるリーダー役にも任命されるシーンが劇中にも登場します。
作品によって描かれ方が変わってきますが、知っているキャラクターが登場したときの、なんともいえない喜びは間違いなく楽しめるポイントの一つです。
ポイント⑤ 劇中に流れる心癒される音楽にも注目
「薯童謡-ソドンヨ」(05年)は、朝鮮半島に古くから伝わる歌「薯童謡」をモチーフにしたドラマでした。歴史書「三国遺事」によると、新羅のソンファ姫の美しさを耳にした百済のソドン(後の武王)は、僧に変装して新羅に入り、ソンファ姫がこっそり百済の王子と密会しているという歌を町の子供たちに歌わせたといいます。この歌を知った新羅の真平王は、ソンファ姫を島流しにし、ソドンはそのソンファ姫を百済に連れ帰って王となったという説話がよく知られているそうです。
ドラマでは、ソドンという名前で山芋を売っていた王子が、新羅の美しいソンファ姫に、毎晩、会いに行くという内容の歌を町中に流行らせていました。ドラマの序盤で町中で子供たちが楽しそうに歌いながら走り回っているシーンが印象的でした。
しかし、多くの歴史学者は当時の新羅と百済の関係から見て、ありえない話だと主張しています。時代劇には少しぐらいファンタジーな要素がないと楽しめないので、ガッツリ歴史を研究している方たちには、大目に見ていただければと思います。
「薯童謡-ソドンヨ」は、イ・ビョンフンが監督のため音楽の挿入の仕方や古典的な楽器を使った、落ち着いたメロディーが「宮廷女官 チャングムの誓い」(03年)によく似ていると思います。きっとスタッフも一部は同じなんだろうなぁと調べてみたら、やはり「~チャングムの誓い」にも携わったイム・セヒョンが音楽監督していました。そして劇中とても耳に残る子供たちの歌声で、エンディングテーマ曲でもある「ソドンー喜」は、「~チャングムの誓い」のエンディング曲「オナラ」で人気を集めた子供たちが大合唱、当時は話題を集めました。意味はわからないけど、なんとなく心癒されるハツラツとした歌声に心が奪われることは間違いありません。「薯童謡-ソドンヨ」は、ストーリー展開も面白いですが、劇中に流れる音楽にも注目すべき作品だと思います。
そんなイ・ビョンフン監督作の音楽にフィーチャーしたイベント「チャングム&イ・サン&トンイの世界 ドラマ・シンフォニー」が、2015年3月27日(金)に東京国際フォーラムにて開催されます。残念ながら、「薯童謡-ソドンヨ」は入っていませんが、「宮廷女官 チャングムの誓い」「イ・サン」「トンイ」の世界が、東京フィルハーモニー交響楽団のフル・オーケストラによる生演奏の中、大スクリーン映像で蘇るという魅力的なコンサートです。
イ・ビョンフン監督が、韓国時代劇への興味の扉を開いてくれたから、このような企画も生まれたんだと思います。当日は、イ・ビョンフン監督とイム・セヒョン音楽監督もゲストで登壇するそうです。今からとても楽しみです。
文/露木恵美子
コメント