歴人マガジン

【独眼竜、おいしい夏のギフトを贈る】あの伊達政宗が300通以上も手紙を書きまくった相手とは?!

65歳の伊達政宗が、娘の牟宇姫へ出した直筆の手紙(角田市郷土資料館蔵)

「川でとったばかりの鮎(あゆ)の鮨(すし)、一桶30入りを贈ります。来月1日あたりが食べごろです。それが過ぎると味が悪くなるので、そのころ忘れないで賞味するように。今日は小原で川狩(かわがり)するため、白石へ移動します。来月半ばごろに若林へ帰る予定です。追伸、日々天気にも恵まれ、幸いでした。一段と元気なのでご安心ください。おざなりの手紙で申し訳ありません。かしく 7月28日」

この手紙は伊達政宗の直筆で、娘の牟宇姫(むう ひめ)へ宛てて書いたものだ。日付は寛永8年(1631)7月28日(年は推定)。政宗65歳、牟宇姫24歳の年である。受け取り人の牟宇姫とは、政宗が42歳(1608年)の時に生まれた子で、母は側室「お山の方」。政宗には14人の子供(10男4女)がいたが、牟宇姫は次女で9番目の子にあたる。

次女に出した手紙、その総数は?

政宗の娘といえば、大河ドラマ『独眼竜政宗』にも登場した長女・五郎八姫(いろは ひめ=1594年誕生)が有名だが、その長女の後はしばらく男子が続き、次女の牟宇姫は14年ぶりに授かった娘だった。そのせいか、政宗は牟宇姫を非常に可愛がり、溺愛したようだ。

戦国の世のならいから、12歳で重臣の石川宗敬(むねたか)に嫁がせることになったが、婚礼の際は政宗も石川邸に1泊して祝った。そうして他家へ嫁にやった後も、政宗はたびたび愛娘へ手紙を書いている。石川家の記録によれば、その総数は全部で329通もあったそうだ(現在は各地に散逸し、1/10程度の31通が現存するのみ)。いずれも、ひらがなを多用した「女文字」で書かれ、プライベート感の漂う内容である。

政宗は「筆まめ」だった。戦国大名の場合、多くは祐筆(ゆうひつ)に代筆させるものだが、政宗は直筆を好んだようで、その自筆書状は約1000点も現存する。ましてやプライベート、溺愛する娘に宛てた手紙。ウキウキしながら筆をとったのだろう。

手紙の部分拡大。「あゆのすもし」(鮎鮨のこと)と、ハッキリ読める(角田市郷土資料館蔵)

さて、冒頭の手紙にあった「鮎ずし」についてだが、政宗は夏になると、決まって家臣を引き連れて川へ鮎を獲りに出た。手紙にもある小原とは現在の宮城県の南部、白石市の小原のことで、今も流れる白石川流域で盛んに鮎がとれたという。御年65歳、年老いた独眼竜が汗だくになって獲ったであろう新鮮な鮎。それをふんだんに使った鮨(すし)の味とは、どんなものだったのだろう。残念なことに、牟宇姫から父への手紙は見つかっていない。

仙台藩の領内に、「鮎」の良い産地があったようだ

一説に仙台味噌、ずんだ餅などを考案したともいわれ、グルメだった政宗。川狩りのたびに必ず牟宇姫に鮎ずしを贈ったようで、亡くなる前年(1635)の夏にも「今晩、鮎を届けさせるから、子供たちと食べなさい。狩りで忙しいから、そちらに行けなくて残念だが」という手紙も残っている。政宗69歳のこの年、牟宇姫は28歳。すでに4児の母だった。牟宇姫も父の贈りものを、子供たちと一緒に喜んで味わったのではないだろうか。

二日酔いを知らせる手紙まで!?

別の手紙では、「昨夜は座を盛り上げようと、したたか酒を飲んだため、気分が優れず困っています。いまだ心がふらふらとして、おざなりの返事で申し訳ない。また、お便りします」と、二日酔いの政宗が、本当にふらふらとした筆跡で出したものもある。二日酔いで苦しむ独眼竜の姿を想像するだけで、可笑しさが込み上げてくるではないか。

実は、最初に挙げた「鮎」の手紙を含めた政宗の直筆書状9通は、宮城県角田(かくだ)市の「角田市郷土資料館」に所蔵・保管されている。資料館では、牟宇姫の嫁ぎ先である石川氏に伝来した甲冑などの武具、馬印、盃などを常時展示。政宗の手紙も、所蔵する中から数点が展示されている。

ひな人形。嫁入り道具と伝わるもの(角田市郷土資料館蔵)

資料館の所蔵品のうち、手紙と同じく牟宇姫の面影を伝えるのが、角田に輿入れの際に持参したと伝えられている雛人形。毎年、ひな祭りの時期に行なわれる企画展(2月中旬~3月中旬)で見ることができるもので、古風な雛人形は江戸時代の面影を伝え、すべての調度品には伊達氏の家紋が入っているなど、とても貴重なものである。

「角田市では、毎年3月に『かくだ牟宇姫ひなまつり』を行なっています。東日本大震災の翌年(2012年)から始まったもので、牟宇姫のこと、彼女と父・政宗とのつながりを多くの方に知ってほしいと考えて企画したものです」と、角田市郷土資料館 館長・碇子幸枝(いかりこ ゆきえ)さんが話してくれた。来年の雛祭りまで、まだかなりの月日があるが、この秋にもスペシャルな企画展があるという。

「2019年2月に『牟宇姫輿入れ400年』を迎えるため、9月から『伊達政宗次女牟宇姫時代展』などを開催します。政宗直筆の手紙や和歌のほか、牟宇姫の姉・五郎八姫をはじめとした政宗の子供たちの手紙も展示します。政宗や牟宇姫をはじめ、ゆかりの人々とのつながりが見えてくる内容となっていますので、ぜひ角田へお越しください」(碇子館長)
この秋、仙台や松島旅行も兼ねて、牟宇姫ゆかりの角田市を訪ねてみてはいかがだろうか。

―牟宇姫輿入れ400年記念事業―
「伊達政宗次女牟宇姫時代展」~手紙の中にみる姫のくらし~
・開催期間:平成30年9月15日(土)~11月25日(日)
・会場:角田市郷土資料館(開館時間 9:00~16:30)宮城県角田市角田字町17 Tel/Fax 0224-62-2527
・期間中の休館日:月曜日(祝日は開館)、9/18(火)、9/25(火)、10/9(火)、11/23(金)
・入館料:無料
※詳しくは【角田市ウェブサイト】または【角田市郷土資料館 公式ページ】で、ご確認ください。

(参考)広報かくだ、フリーマガジン「かくだのかお」

文・上永哲矢

大河ドラマ「独眼竜政宗」がチャンネル銀河で放送中!(2018年8月現在)

放送日:好評放送中 月-金 午後2:00~
番組ページ:https://www.ch-ginga.jp/movie-detail/series.php?series_cd=1790

関連記事:
【 大河ドラマ「独眼竜政宗」をもっと面白く! 】東北の雄・伊達家は、どこから来たのか?
【 梵天丸もかくありたい 】 伊達男・伊達政宗のダテなエピソード
【 人気ナンバーワン武将 】 伊達政宗を愛した多くの女性たち

Return Top