歴史作家・泉秀樹が歴史の現場を探訪取材し、独自の視線で人と事件を解析して真実に迫る「泉秀樹の歴史を歩く」(J:COMテレビで好評放送中)。
今回のテーマは、鎌倉幕府の第4代将軍・九条頼経(藤原頼経)。
鎌倉幕府三代将軍・源実朝、暗殺の五ヵ月後、京から鎌倉へ送られた赤児は成長して、四代将軍に就任し、執権・北条氏と激しく争った。その陰謀と騒乱と覇権の行方を追跡する。
第1章 三寅の誕生
建保6年(1218年)1月16日、京の九条(藤原)道家に三男が生まれた。母は西園寺公経(きんつね)の女(むすめ)・綸子(りんし)である。綸子は源頼朝の姪、つまり頼朝の妹・全子の娘である。生まれた子供は「三寅(みとら)」と名付けられた。寅年の正月、寅の日、寅の刻に生まれたからである。三寅は鎌倉幕府と朝廷のパイプ役をつとめた九条兼実(かねざね)の曽孫でもあった。源頼朝の妹が一条能保(よしやす)の妻となって生んだ女が九条兼実の嫡男・良経(よしつね)と結婚し、そこで生まれたのが道家である。三寅はこの道家夫婦の子だから、頼朝とは血がつながっている。いわば京と鎌倉を結びつける一本の絆であった。が、それはよき絆であったか、悪しき絆であったか。
第二章 承久の乱
承久3年(1221年)、5月22日朝、『討幕の院宣』からわずか一週間後。義時の嫡男・十八歳の泰(やす)時(とき)は、たった十八騎をひきいて、京へ向かった。「承久の乱」のはじまりである。遠州(えんしゅう)(静岡県西部)以東十五か国に動員令が出されていたため、武士団が次々と合流し、18騎はみるみるうちに15万騎(19万騎ともいう)にふくれあがった。6月5日、木曽川(きそがわ)沿岸で合戦となった。上皇軍は、美濃と尾張の国境で防衛しようとしましたが突破され、宇治・瀬田ラインまで撤退する。そして6月13日、大雨のなか宇治川(うじがわ)で激戦となり、上皇軍は敗走した。このとき鎌倉側は20万近い軍勢に増えていて、京へなだれこみ、たちまちのうちに京の全域を征圧した。
第三章 新将軍と北条家
九条頼経。藤原氏を祖とする五(ご)摂家(せっけ)の出で、源頼朝につながる血筋の良さから、着任に至った鎌倉幕府四代将軍の地位。しかしまだ九歳だった。頼経は「摂家(せっけ)将軍」「藤原(ふじわら)将軍」「公(く)郷(ぎょう)将軍」「七条(しちじょう)将軍」などと呼ばれた。4年後の、寛喜2年(1230年)12月9日、13歳になった頼経は、妻を娶(めと)った。二代将軍・頼家と妻の若狭局(わかさのつぼね)のあいだに生まれた竹御所(たけのごしょ)鞠子(まりこ)である。つまり、頼経と竹(たけの)御所(ごしょ)の間に子供が生まれれば、「武家のトップブラント・源氏の血統復活」となり、この結婚を御膳立てしたのは、北条泰時ということである。
第四章 将軍追放へ
北条家の意向で将軍職を子供の頼嗣に譲ったあと、引退して「大殿(おおいどの)」と呼ばれるようになった頼経は、新将軍・頼嗣の後見として幕府の行事に参加し、寛元3年(1245年)7月5日、鎌倉・久遠寿量院で出家して法名・行賀と名乗った。出家の理由は天変と病のせいであったといわれるが、経時の恫喝によると考えるのが自然ではないか。少なくとも頼経は俗世間から離れ、自分には政治的な野心がまったくないことを示さなければならなかった。もちろん、頼経が出家して恭順の意を表しても、経時は警戒の手をゆるめなかった。
番組ナビゲーター:泉秀樹(いずみ ひでき)
作家・写真家 昭和18年(1943)静岡県浜松市生まれ。昭和40年(1965)慶應義塾大学文学部卒業。産経新聞社記者・編集者などを経て作家として独立。写真家としてもヤマハ横浜・藤沢で『モーツアルトのいる風景展』、藤沢市民ギャラリーで『四季の藤沢-人と海と街展』を開催するなどの活動をつづけている。昭和48年(1973)小説『剥製博物館』で第5回「新潮新人賞」受賞。日本文芸家協会会員。
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