第17回「新選組美少年隊士の謎を解く!」【歴史作家・山村竜也の「 風雲!幕末維新伝 」】

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幕末維新の志士や事件の知られざる真実に迫る連載「風雲!幕末維新伝」。第17回のテーマは「新選組美少年隊士の謎」です。

美男五人衆

新選組に、「隊中美男五人衆」というものがありました。『新選組始末記』(昭和3年)を著した作家子母澤寛が、新選組3部作の第3弾として出版した『新選組物語』(昭和6年)のなかに、そのことが記されています。
新選組が屯所にした京都壬生の八木家の為三郎がそのころまだ存命だったため、子母澤が現地で為三郎に面会して取材し、新選組に関するさまざまな話を聞き出しました。そのなかに「美男五人衆」のエピソードがあったのです。

新選組が屯所にした八木邸

新選組の美男というと、土方歳三や沖田総司らが頭に浮かびますが、この5人のなかには土方も沖田も入っておらず、メンバーは全員無名の隊士です。
楠小十郎(17歳)、馬越三郎(16歳)、山野八十八(21~22歳)、佐々木愛次郎(19歳)、馬詰柳太郎(20歳)という顔ぶれで、一見してわかるように、全員十代か二十歳になったばかりの若者でした。

若くて美男ということになれば、ありがちなのが女性スキャンダルです。ご多分にもれず、このうち4人にその手の話が残っており、そういうこともあって八木為三郎にとっては印象深い記憶になっていたのでしょう。
山野八十八の相手は、壬生の水茶屋・やまと屋の娘。馬詰柳太郎の相手は、新選組が一時期屯所にしていた南部家の子守女。馬越三郎の場合は女ではなく、なんと男色家の隊士武田観柳斎。もっとも馬越のほうにはその気がなかったので、言い寄られてもついに応じなかったと「隊中美男五人衆」には記されています。

佐々木愛次郎とあぐり

そんななかで悲劇的な話として語られているのが、佐々木愛次郎です。

「佐々木愛次郎は、大阪の錺(かざり)職人のせがれで、まだ芹沢鴨が生きていた文久三年春、新選組壬生屯営に入って来た。その時漸く十九、丈は余り高くないが、顔もからだも雪のように白く、それでいて、何処を指でついても、撥き返しそうに引締っていた」

「隊中美男五人衆」でそう描写される愛次郎と恋仲になったのが、八百屋の娘のあぐり。愛次郎より2歳下の17歳のあぐりは、界隈でも評判の器量よしでしたから、美男の愛次郎とはすぐにお似合いの恋人同士となりました。

ところがこのあぐりに局長の芹沢鴨が横恋慕し、黙って自分に差し出せと無茶なことをいいます。愛するあぐりを渡すわけにはいかないと愛次郎が悩んでいると、芹沢の子分の佐伯又三郎という隊士が、「君は仕方がないから本隊を脱走し、女をつれて逃げる方がよい」と助言しました。
愛次郎は感謝して、数日後、思い切ってあぐりを連れて脱走をはかりました。しかし、実はこれは佐伯の仕組んだ罠だったのです。

朱雀千本近くの島原遊郭跡

愛次郎たちが朱雀千本の竹藪にさしかかると、不意に佐伯が4、5人の仲間を引き連れて現れ、2人に襲いかかります。愛次郎は斬られて絶命し、あぐりは佐伯に暴行されてしまうのでした。
その最中にあぐりは自ら舌をかみ切って自害し、無念の最期をとげます。2人の遺体はそのまま現場に放置され、犯人は誰かわからないままになってしまいました。

ところが、悪いことはできないもので、犯人が佐伯であることはすぐに芹沢の知るところになります。真相を知った芹沢は激怒しました。

「因縁というものは恐ろしいもので、この佐々木が殺されて間もなくーーそうですね、ものの十日と経たぬ中に当の佐伯亦(又)三郎が、芹沢のためにまたこの朱雀の竹藪へ引出されて殺されて終ったのです」

子分だと思っていた佐伯が、自分が気に入っていたあぐりを一足先にものにして、あげくに死なせたと知り、芹沢は許しておけなかったのです。

愛次郎は生きていた

壬生寺

以上が「隊中美男五人衆」で語られている佐々木愛次郎の話です。佐伯の遺体が放置されている様子が、文久3年(1863)8月10日の複数の記録に記されているので、佐伯の殺害はその日のことと見ていいでしょう。
そしてそれより10日ほど前に愛次郎が斬殺されたということから、当時の記録を確認すると、確かに8月2日朝にこのような目撃記録がありました。

「同日(二日)朝、千本通り辺に男壱人、女壱人、切捨て置候」(『莠草年録』)

時期といい、状況といい、愛次郎とあぐりの殺害状況そのままです。ここで目撃されたのが彼らの遺体であることは、間違いないものと思われました。

しかし、最近、新史料の『維新階梯雑誌』が発見され、そのなかに私たちを驚かせる記述がありました。同史料に収録された文久3年12月の新選組名簿には、42人の隊士が記されていますが、沖田総司率いる一番隊のなかにこのような記載があったのです。

「大坂 佐々木愛次郎 十七才」

8月に死んでいるはずの愛次郎の名が、同年12月の名簿にまだ載っているのです。名簿の管理がずさんで、死んだ者も載ったままという可能性も考えられましたが、ほかの顔ぶれを見るとまったく問題は見られず、誤字が散見されることを除けば、非常に正確度の高い名簿であることがわかりました。
とすれば、12月の時点で愛次郎はいまだ生きていて、在隊していることになります。いったいこれは、どういうことなのでしょうか。

考えられることは一つだけ。子母澤寛が「隊中美男五人衆」を書いた際、話を創作してしまったということです。
子母澤の新選組三部作のうち、『新選組始末記』、『新選組遺聞』の2作は史実を重視した作りになっているのに対して、『新選組物語』は創作色が強いことはかねてから指摘されていました。したがって、『物語』に収められた「隊中美男五人衆」に事実でない内容が含まれているのは、実は十分にありうることなのです。

おそらく子母澤は、佐伯が芹沢に斬られた10日ほど前に同じ場所で男女の遺体が見つかったという話も、八木為三郎から聞いていたのでしょう。それを愛次郎とあぐり(この女性も創作ということになります)の遺体ということにしてしまい、話をおもしろく作ったというのが真相と思われます。

新選組を彩るエピソードの一つが事実でないとすれば、残念なようにも思えますが、愛次郎が非業の死をとげたのではなかったのなら、それは逆によろこぶべき新事実ということになるのではないでしょうか。

 

「世界一よくわかる新選組」(著:山村竜也/祥伝社)


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