大泉洋主演の映画『新解釈・三國志』が、いよいよ2020年12月11日(金)に公開される。福田雄一監督による「新解釈」が全編に散りばめられた、喜劇要素満載の新たなる三国志作品。劇場で日本初の実写版「三国志」が観られるというだけあって期待感はうなぎ登りだ。
いっぽうで「三国志ファンは観なくていいんじゃないかな…(笑)」と大泉洋が完成報告会見にて発言したことも話題になっている。ただ、ファンとしてはやっぱり気にせずにはいられないのも事実だろう。
そこで今回は、試写会で鑑賞しての印象や、刮目(かつもく)すべきポイントを(ネタバレにならない程度に)紹介してみたい。
はじまりはいつも…桃園の誓い
三国志(演義)のはじまりといえば「桃園の誓い」。なんだ、意外と普通じゃないか…と思いきや、やっぱり一筋縄ではいかなかった。「われら三人、姓は違えども兄弟の契りを結びしからには…同年同月同日に生まれることを得ずとも、同年同月同日に死せん」という、おなじみのフレーズを3人同時に唱えるシーンで、そのタイミングがずれまくりで笑わせてくれる。
考えてみれば「3人が同時に言えば確かにそうなるよなあ」と不思議に納得してしまう。しかも、劉備(大泉洋)が関羽(橋本さとし)、張飛(高橋努)に「義兄弟になって旗揚げしよう」と言ったのは「酒の勢い」というのが本作の設定。「この先、大丈夫なの…?」と、見ていて心配にもなる波乱の幕開けだ。
しっかり「強い」呂布に刮目せよ!
黄巾討伐を経て、舞台はあの「虎牢関の戦い」へ。そこへ立ちはだかるは、最強の呂布(城田優)。武器や防具の力の入り具合は写真でもわかるが、実際の戦闘シーンも迫力十分。観る前は「もしや、戦闘シーンは無いのでは…?」と勝手に思っていたが、なんのなんの。
呂布が雑兵をなぎ倒し、張飛・関羽を相手にガンガン打ち合う場面は序盤のクライマックスともいえる場面。ちゃんと「強い」呂布が躍動しているので注目してもらいたい。ちなみに、赤兎馬が本当に「赤兎」なところにも刮目すべし!
イケメンだけど鼻につく(?)チャラい趙雲
見た目は超イケメンで忠義心にあふれる若武者・趙雲(岩田剛典)。でも本作の趙雲は原作とちがって「チャラい」。みずから「三国一のイケメン」と称し、とにかく振る舞いがチャラい。劉備には「鼻につくわあ」と呆れられる始末。それでも武勇はさすがのひとこと。趙雲一番の見せ場である「あの名場面」での大活躍もあり、ほかにも本作ならではの重要な働きどころがあるので、お見逃しなきよう。
歴史書に忠実…かもしれない曹操
小栗旬が演じる曹操は、序盤はヒゲなし、中盤以降はヒゲありの2パターンが拝める(劉備も同様)。大河ドラマ『天地人』では石田三成、『信長協奏曲』では織田信長を演じた小栗旬が、それらとはまた違った雰囲気で、曹操という偉大な英雄を演じる。「あの劉備に、諸葛亮が来たとなれば話は別だ…」といったセリフ回しの格好良さもさることながら、実は茶目っ気たっぷり。目隠しをして妃らを追いかけまわす酒池肉林っぽいシーンまである。
実は「正史」に引用される歴史書『曹瞞伝』に「(曹操は)軽佻浮薄な人柄で威厳がなく、音楽好き。芸人をそばに侍らせ、日中から夜まで楽しんだ。上機嫌で大笑いしたときなど、頭を杯や碗の中に突っ込み、びしょびしょになるほどだった」という意外な面が書かれている。実は、本作にはそういう部分が取り入れられているのでは…と勝手に感じた次第である。ちなみに曹操陣営では主に夏侯惇(阿部進之介)、荀彧(磯村勇斗)が登場する。クライマックスとなる「赤壁の戦い」は曹操陣営の見せ場でもあるから目が離せない。
期待通り(?)のイケメン周瑜に刮目!
容姿端麗、今流にいえばイケメンと連想するであろう周瑜(賀来賢人)。音楽にも精通し、非の打ちどころのない武将像は原作通り。だけれども、ちょっとフワフワして諸葛亮(ムロツヨシ)の策略に簡単に騙されてしまうあたり、ある意味『三国志演義』の役どころに忠実かもしれない。若き主君・孫権(岡田健史)を、宿将・黄蓋(矢本悠馬)、魯粛(半海一晃)とともに支える姿を見てほしい。個人的には魯粛が、齢を取り過ぎている観はあるものの凄く良かった。
三顧の礼(?)に応えまくる勢いの諸葛亮
劉備がみずから草庵を三度も訪れ、それに感激した諸葛亮が忠誠を誓う…という名場面「三顧の礼」。ここまで書いてきて今さらだが、常識から外れまくるのが本作の劉備と諸葛亮(ムロツヨシ)の関係。予告編などを観た方はお分かりかと思うが、諸葛亮の人物像も、原作のような真面目一筋とはまるで違っている。いったい、どんな「三顧の礼」や「水魚の交わり」が展開されるのか。
諸葛亮の妻・黄夫人にも刮目!
映像作品などでは、ほとんど登場することのない諸葛亮の妻、黄夫人(橋本環奈)。民間伝承などでは発明家で、内助の功で夫を支えたという賢婦だ。映画『キングダム』では、河了貂(かりょうてん)という個性的なキャラを演じて話題になった橋本環奈が、どういった夫人像を演じるかに刮目してほしい。
まさに魔性(?)ジョーカー的存在の貂蝉
ある意味で、本作最大の「謎」が、この貂蝉(渡辺直美)かもしれない。本作には王允(おういん)が登場しないため、原作とは違ったユニークな登場シーンも見所といえよう。もちろん、董卓(佐藤二朗)と呂布の仲を裂くために送り込まれるという役回りは原作通りだが。それにしても、なぜこの人がこの役を…?と思わされる人選も含め、本編の展開を楽しみにしていただきたい。
以上、これでもかと言わんばかりに「刮目」ポイントを語ってきたが、残念ながら「刮目」の語源である呂蒙は登場しない。
それはともかく、今までの三国志の実写映画といえば、やはり本場中国の独壇場だった。おさらいの意味で、日本でも劇場公開された中国の映画版三国志を挙げてみよう(年号は日本公開年)。
1990年
『三国志 大いなる飛翔』(原題:関公)
2008年
『レッドクリフ PartI』(原題:赤壁)
2009年
『レッドクリフ Part II -未来への最終決戦-』(原題:赤壁2 決戦天下)
『三国志』(原題:三國之見龍卸甲)
2012年
『三国志英傑伝 関羽』(原題:關雲長)
2014年
『曹操暗殺 三国志外伝』(原題:銅雀台)
ざっと、こんなところである。「あれ?意外と少ないぞ」と思われるかもしれないが、大長編作品でもある三国志の映像化は、それだけ大変なのだろう。一番有名な作品と思われる『レッドクリフ』は、赤壁の戦いだけに焦点を当てたものだが、それでも前後編あわせて5時間もの長編だったのだから。
『新解釈・三國志』は、日本で制作される初めての実写版というだけでなく、2014年以来の劇場版三国志作品となり、期待の高まりにも頷ける。何より筆者としてはこれだけの日本の一流俳優陣が集結した作品であるし、今まで興味のなかった人が、これを機に三国志に触れてみようと思ってくれるのでは、という大きな期待感がある。
最後に、冒頭の「三国志ファンは観なくていいんじゃないかな…(笑)」という発言について。今さら言うまでもないかもしれないが、あえてひとこと添えておきたい。本作はあくまで喜劇であり、コメディ作品である。それ以上でもそれ以下でもないので、そのあたりを念頭において観ましょう、ということだろうか。肩の力を抜いて、目一杯楽しんでしまうのが正解かと思う。
※出演者の敬称は略させていただきました。
文・上永哲矢
映画『新解釈・三國志』
公開日:2020年12月11日(金)全国東宝系ロードショー
脚本・監督:福田雄一
公式HP:https://shinkaishaku-sangokushi.com/index.html
公式Twitter:@new_Sangokushi
公式Instagram:@new_sangokushi
Ⓒ2020 映画「新解釈・三國志」製作委員会
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