チャンネル銀河で2021年4月7日(水)よりCS初放送を開始する大河ドラマ「おんな城主 直虎」。これを記念し、「その時歴史が動いた」の司会などで知られる松平定知氏に、ドラマの見どころについて語っていただきました。
知名度の低さを逆手にとり、女性や民に着目した斬新さ
女性を主人公に描いた大河ドラマは、2008年(平成20)からの10年間で『篤姫』(主演:宮﨑あおい)、『江 ~姫たちの戦国』(主演:上野樹里)、『八重の桜』(主演:綾瀬はるか)、『花燃ゆ』(主演:井上真央)、『おんな城主 直虎』(主演:柴咲コウ)と5作品におよびます。これは「いまの時代が、いかに女性の主人公を求めているか」を反映している証しだと思います。
そのなかには、自ら先頭に立って時代を動かした女性もいれば、歴史の舞台裏からサポートして大きな役割や使命を果たした女性たちもいます。そんなヒロインたちからは、女性らしい繊細な有能さだけでなく、時代の荒波に負けない芯の強さも垣間見え、「男性だけが歴史をつくってきたわけではない」ということをあらためて実感させてくれます。
なかでも『おんな城主 直虎』は、「女性だからこういう生き方をすべき」といった固定概念をことごとくぶち壊すという点でも斬新でした。直虎には愛する人からの求婚を断り、酒を飲んでは乱れ、ときには商人からお金をぶんどるなど、出身がお姫さまとは思えないワイルドさがありました。その魅力を生みだした要因のひとつが、直虎に関する史料が極端に少ないということを逆手にとった自由度の高さです。知名度の低い主人公だからこそ創作の幅が広がり、そのおかげで民の暮らしや苦しみに目線を向けることができたといえ、「武士だけでなく、民衆も時代をつくってきた」ということがよくわかる歴史ドラマに仕上がっています。
直虎・直親・政次の思いが最後に名前に集約する妙味
ドラマは、おとわ(のちの井伊直虎)・亀之丞(のちの井伊直親)・鶴丸(のちの小野政次)という3人の幼なじみの物語からスタートします。おとわは遠江国井伊谷〈いいのや〉の城主・直盛のひとり娘で、男児がいない直盛はいとこの亀之丞を娘の許婚〈いいなずけ〉にして家督を継がせる予定でした。ところが、亀之丞の父親が井伊家を実質的に支配していた今川家から謀反の疑いをかけられて殺されてしまい、命を狙われた亀之丞はひそかに信州へ逃がされます。幼いおとわは亀之丞が死んだものと思いこみ、悲嘆して自ら出家し「次郎法師」と名乗りました。
時は流れ、成人した直親(亀之丞)が井伊谷に戻ってきました。しかし、次郎法師は出家の身であったため、直親との結婚をあきらめます。やがて桶狭間の戦いで直盛が戦死し、直親も今川家の陰謀で命を落とすなど、井伊家は男子がいなくなって存続の危機に直面しました。龍潭寺〈りょうたんじ〉の南渓和尚〈なんけいおしょう〉の計らいで、次郎法師は還俗〈げんぞく〉して「井伊直虎」と名乗り、直親の遺児で5歳の虎松(のちの井伊直政)を後見して、井伊家を支えていきます。“おんな城主 直虎”の誕生です。
そんなドラマの中盤におけるクライマックスのひとつが、井伊家の家老で今川家の目付でもある小野政次が死ぬ場面です。政次が奸臣を装いながら、じつは誰よりも井伊家のことを考えていたというストーリー展開は、みごとのひと言に尽きます。政次が直虎への想いを封印してもなお、こぼれ出てしまう感じがファンにはたまらなかったことでしょう。嫌われ役を演じてきた政次が周囲にバレないように直虎にエールをおくる刑死シーンは、多くの視聴者の涙を誘いました。放送終了後に「政次ロス」が続出したと話題になったほどです。
このように、ドラマに登場する人物たちは、自分より大切なものがある者は、それを守るために躊躇なく命を差しだしていきます。井伊家の家臣が言った「守るべきものを守るために死んでいける者は、果報者なのですよ」というセリフが、心にしみます。
また、本作は入れ替わり立ち替わりイケメンたちが支えてくれるという「王道の少女漫画」のテイストが世の女性たちのハートをわしづかみにしました。さらに、徳政令や綿栽培、材木の話といったショートストーリーが、のちのメインストーリーに大きくかかわるという展開も秀逸でした。そして、なにより視聴者がハンカチを濡らしながら見入ったのは「すべては“直政”という名前に込められた直虎・直親・政次の思いを描くための物語だった」というラストに尽きます。井伊家が必死に守ってきた跡取りの虎松(万千代)が、徳川家康から「井伊の通字である“直”、小野の通字である“政”を取り、そなたの名とせよ」と由来を教えてもらいます。“直政”という名前ひとつに物語が集約し、みごとに昇華した瞬間です。
大河ドラマ『おんな城主 直虎』は、笑わせるところではリラックスムードを誘い、泣かせるところでは涙の要求を容赦しません。喜怒哀楽に揺さぶりをかける物語に身をまかせ、どっぷりとその世界観に浸ってみてはいかがでしょうか。
元NHKアナウンサー。ニュース番組のほか、『紅白歌合戦』や『その時歴史が動いた』の司会などを務めた。連続テレビ小説『あさが来た』に富永巌の役で出演。
大河ドラマ「おんな城主 直虎」
放送日時:2021年4月7日(水)放送スタート 月-金 朝8:00~
番組ページ:https://www.ch-ginga.jp/feature/naotora/
出演:柴咲コウ(おとわ/次郎法師/井伊直虎)、三浦春馬(亀之丞/井伊直親)、高橋一生(鶴丸/小野政次)、杉本哲太(井伊直盛)、財前直見(千賀/祐椿尼)、貫地谷しほり(しの)、阿部サダヲ(竹千代/徳川家康)、菜々緒(瀬名/築山殿)、前田吟(井伊直平)、小林薫(南渓和尚)、柳楽優弥(龍雲丸)、菅田将暉(虎松/万千代/井伊直政) ほか
制作:2017年/全50話
作:森下佳子(『JIN-仁-』、連続テレビ小説『ごちそうさん』)
音楽:菅野よう子
語り:中村梅雀
コピーライト:©NHK