いよいよ2016年1月28日に発売を控えた、歴史シミュレーションゲーム『三國志13』。同作の完成発表会が去る1月21日、東京・新宿にてコーエーテクモゲームス主催で行われた。すでに各ゲームサイト(ファミ通.comなど)で発表会の概要はたくさん紹介されているため、こちらではゲストの吉川晃司さん、シブサワ・コウさんらのトーク内容に絞った形で、三国志ファンの観点から感じたことなどを書き留めておきたい。
発表会のメインゲストとして登場した吉川晃司さん(ミュージシャン/俳優)。吉川さんは、『三國志13』のテーマソング「Dance To The Future」を書き下ろした。「現代だって乱世。己の未来や、いろんなものを守るために勝っていかなきゃいけない。その戦を踊りに例えた」と「ダンス」と名づけたコンセプトを説明した。
三国志を含む古代中国に詳しいことで有名な吉川さんに、コーエーテクモゲームスからオファーがあったといい、吉川さん本人も「こんなに光栄なことはない」と引き受けたという。
吉川さんが中国史好きとして有名になったのは、2000年代中ごろ、小説家の北方謙三氏や宮城谷昌光氏と、雑誌・新聞などで対談したことがきっかけだと思う。
ともに「三国志」はじめ中国史を題材にした時代小説の大御所だが、当時それらの対談を何度か興味深く読んだ。吉川さんは、特に北方氏の三国志を「自分にとっては教科書みたいな感じ」と語っていたのが印象に残る。
2010年にはフジテレビで放映された『吉川晃司が語る!今こそ学ぶ三国志』という番組で、30分間ひたすら三国志について熱く語ったこともある。それらを見たり読んだりした方なら、吉川さんの知識が小説だけによらず、歴史もしっかり学んでいることをご存じだろう。
今回の完成発表会では、『三國志13』ゼネラルプロデューサーのシブサワ・コウさん(中央)と、プロデューサー 鈴木亮浩さんが臨席。冒頭の自己紹介で、吉川さんは「信長の野望」や「提督の決断」をプレイしたことがあると明かした。歴史ゲームのプレイ経験があったことは、今回初めて明かしたのではないだろうか。特に「提督の決断」の名前が出たことには驚かされた。
「提督の決断」は第二次世界大戦を舞台にした戦略シミュレーションで、同社の人気シリーズだったが、現在までに第4作ある。昨今の情勢から続編の制作は難しいのかもしれないが、筆者もひそかに期待しているひとりだ。
好きな三国志の人物について。「たくさん居すぎて困る(笑)」といいながらも、曹操・馬超・呂布の3人を挙げ、その理由を「傾(かぶ)いているから」と話した吉川さん。確かに馬超や呂布の生き方は、イメージとして無頼者のようで吉川さん好みともいえそう。
その3人の中でも、曹操が話題の中心になった。吉川さんはテレビ番組の企画で実際に曹操の墓を訪ね、そこで出土品の石枕の写真を見たことでより感情移入したという。
ちなみに、吉川さんが言ったテレビ番組とは、2014年にNHK-BSプレミアムで放送された「古代中国 よみがえる伝説 曹操と孔明~乱世の英雄・知られざる素顔~」のことだ。
その番組では、吉川さんがナビゲーターとして現地に降り立ち、曹操墓の入口に立って、「ロマンだね~」と感慨深げにつぶやいたり、「曹操は頭痛持ちでしたからね」と知識を披露していたりしたことが印象深かった。
私も曹操墓を訪ねたことがあるが(上写真)、墓穴の内部にまでは降りられなかったので羨ましく視聴したものだ。この墓を訪問して実際に内部へ入った著名人は、他に渡邉義浩教授や、俳優の北村一輝さんぐらいだろうか。吉川さんの番組では官渡の古戦場や四川省にある蜀の桟道も訪ねていたが、このあたりの話、一度ぜひじっくりと伺ってみたいものである。
そんな曹操だが、『三國志13』ではこれまで通り非常に高い能力を持った武将として設定されており、特に統率力99は全武将の中で1位である。
続いて三国志に登場する女性たちの話へ移ったが、吉川さんは「あれ?曹操の話はもう終わりですか」と残念そうな様子。確かに、もう一言か二言、曹操について質問して欲しかった気がするが、まあ、それだけで10分や20分は話してしまいそうな勢いだった(笑)。ちなみに、司会の天野唯さん(左端=MC&ナレーター)も無双シリーズをプレイしておられるようで、三国志もお好きな様子であり吉川さんの話にもしっかり反応しておられた。
「貂蝉(ちょうせん)は架空の人物なのに、中国四大美女(ほかに西施・王昭君・楊貴妃)のひとりになっているのが面白いし、三国志演義の影響力の凄さを感じる。正史に出てくる董卓の侍女がモデルなんですよね?」と語った吉川さん。このマニアぶりに、シブサワさんや鈴木さんも、すっかり感心されていた。時間の関係で孫尚香・大喬・小喬については触れられなかったが、大喬・小喬から曹操の銅雀台の話につなげられたら、なお大喜びだったのではないだろうか。
そして吉川さんがもうひとり、注目の人物として名前を挙げた人物が、張角(ちょうかく)。「三国志は劉備や曹操が中心に描かれているが、当時を生きた民衆から見れば彼がヒーローだったかもしれない。彼が起こした『黄巾の乱』がなければ三国志の時代は始まらなかった」と、多面的な視点から理由を語った。これに「こういう場で張角の話が出たのは初めてです」と、シブサワさんはまた驚いた様子。
鈴木亮浩さんが、「中国人の方と話をしたとき、あれは日本では『黄巾の乱』と呼ばれているが『乱』ではないと言われた」と話せば、吉川さんは「張角は日本でいえば一向一揆の主導者みたいになるのかもしれませんね」と返答した。
黄巾党は太平道という宗教団体でもあった。日本でも、戦国時代には一向宗徒が中心となった一向一揆が盛んに起き、加賀地方では大名を自害にまで追い込んだという歴史がある。彼らから見れば、織田信長や上杉謙信などの大名も憎むべき相手だったわけだ。
中国の歴史上でも秦を滅ぼすきっかけになった「陳勝・呉広の乱」、清朝時代に十数年にわたって繰り広げられた「太平天国の乱」など、民衆による反乱が繰り返されている。『黄巾の乱』に関していえば、「三国志演義」においては『黄巾の乱』を起こした黄巾党は「黄巾賊」とも記されている。
知り合いの中国人に聞くと、中国の民間では正史よりも三国志演義の影響が強いため、現在のテロ活動などと結び付けて考える人も多いらしく、そのあたりは安直には扱えないというか、結構デリケートなのだそうだ。
すっかり脱線してしまったが、続いては『三國志13』に登場する「武将・吉川晃司」(テーマソングを購入すると2ヶ月間限定でダウンロード可能)についての話題へ。武将・吉川晃司の能力値は、「統率」「武力」「知力」はゲーム中でもトップクラスに設定されている一方で、「政治」の値は1という極端な設定となっているのが面白い。
これは吉川さん本人の指示によるという。「昨今の政治を見ていて感じるんだけど、政治に乗っかるとロクな人物になりそうにない(笑)。あの時代なら、猪突猛進がいい。おそらく戦場に出たら、強い武器を持っているのにすぐ死んでしまうキャラですよね。でもそういう刹那な感じ、短命な感じもいいかなと」と会場の笑いを誘った。
「水練」というパラメータが最高の9に設定されていることで、水上戦でも活躍できる武将ということになる。これについても「蔡瑁(さいぼう)の水軍に入れてもらおう」と、三国志ファンのツボを突く発言。これは演義の「赤壁の戦い」で、曹操が水軍に精通した蔡瑁を処刑してしまったことで、敗因になったことを知らなければいえない言葉だ。
今回の『三國志13』では、武将の個人プレイ制ができるほか、従来の作品と同様、プレイヤーが自分の分身を作ってそのキャラでプレイできることも売り。「もし、乱世に生まれていたらどんな生き方をしたいか?」という質問に対しても、「戦に出て、すぐに果てちゃうようなキャラクターじゃないかと思います。望んでいるわけじゃないですけどね。でも荀彧(じゅんいく)みたいな活躍もしたい」と言った。
このような一般向けともいえる発表会で、まさか蔡瑁や荀彧の名前まで出るとは意外で、三国志ファンとしては嬉しかった。そうした数々の発言から察するに、吉川さんは当時に生まれ変わったら、やはり曹操軍に入ってみたいのだろうし、「三國志13」でも曹操陣営でプレイされるのだろう。
三国志ファン&吉川晃司ファンの方であれば、曹操の配下に「武将・吉川晃司」を入れてプレイしてみても面白そうだ。あの高能力。味方であれば心強く、敵であれば脅威の存在になるだろう。
完成発表会では、このほかにも購入特典や、さまざまなタイアップ情報が発表されたが、特に興味深かったのは横山光輝「三国志」や、ドラマ「三国志 Three Kingdoms」とのコラボ。これらのキャラクターで『三國志13』をプレイできるのは、なかなか面白い。少しでもたくさんのキャラクター画像が登場することを願いたい。
個人的に注目したいのが、中国の航空会社「春秋航空」とのタイアップ。赤壁の古戦場にも近い武漢および重慶と、成田を結ぶ便が、2月から就航になる。筆者も春秋航空を利用したことがあるが、格安ながら十分に良い乗り心地だった。また近々、中国へ行ってみたいと思う気持ちが強くなってきた。
さて、いよいよ発売間近となった『三國志13』。筆者も同シリーズを全作プレイしているファンのひとりとして発売を待ち望んでいた。個人的なプレイスタンスは大抵、荊州四君主の一角とか、厳白虎のような弱小勢力を選択するが、今回もその勢力下にいる一武将を選んでみたいと考えている。
最近は時間に余裕がなく、ゲームを長時間やることは難しくなっているが、吉川さんだって「ツアーの合間にやってみたい」と語っておられた。今作は何とか時間を作り、腰を据えてプレイしてみたいと思う。
※購入および最新情報のチェックはこちらで。
三國志13 公式サイト
※ゲーム画面・武将画像提供/©コーエーテクモゲームス
※画面はすべて開発中のWindows版のものです。