土の城好きなら一度は行きたいと言われるほど人気のある杉山城(埼玉県比企郡嵐山町)。本サイトの連載「戦国の城・ネコの巻」でおなじみの城郭研究家・西股総生氏が、いまだ結論の出ない「杉山城問題」の論点を徹底検証した書籍『杉山城の時代』(KADOKAWA)を発売しました。まさに「戦国の城・虎の巻」な内容のつまった本のポイントをご紹介いたします。
新説によって現れた「杉山城問題」
いつ誰が築いたかを示す史料はないものの、さまざまな築城技法を凝縮した精密機械のような縄張りをもつ杉山城。城郭研究者から城マニアまで、多くの人をうならせてきたこの城は、1550〜60年代の北条氏の築城と考えられてきました。しかし、2000年以降に行われた発掘調査で、出土した遺物の年代が15世紀前後から16世紀前半におさまるという結果が示されてから、北条氏がこの地方に進出する以前、山内上杉氏の築城の可能性が出てきたのです。
はたして、杉山城ほどの技巧的な縄張りが戦国前期に存在するのか。この年代をどう考えるかという問題は、いつしか「杉山城問題」と呼ばれるようになりますが、この「新説」に違和感を抱く研究者も多く、いまだ結論が出ていない状態です。
この本の一番のポイントは、杉山城のような城が必要とされた戦国時代とはどんな時代だったのか、城と人とがどのように関わりあう時代だったのかを、縄張り研究を専門とする西股氏が、杉山城というひとつの城を通して論じるというところです。城好きはもちろん、戦国ファンにとっても新たな発見、土の城の見方が変わる一冊となっています。
絶対絶命!徹底的な横矢掛り
そんな杉山城とは、いったいどんな城なんでしょうか。
まず本に載っている縄張り図を見ただけで、迷路のような様相に圧倒され流でしょう。北、東、南と三方向に伸びた尾根に点在する9つの曲輪には、それを囲むように深い堀が掘られています。曲輪は土橋という細い道でつながっていますが、敵が攻めてきた場合など、大勢で渡るときに人が集中するようになっています。さらに杉山城のすごいところは、敵が集まりやすい土橋や虎口(曲輪の出入り口)に、側面から攻撃できるよう、徹底的に横矢が掛かっているところです。この工夫を「横矢掛り」といいます。
迷路のような縄張り、道を踏み外せばひとたまりもない深い堀、さらにどこから飛んでくるかわからない矢に怯えながら進む敵兵の気持ちがリアルに味わえる杉山城。改めてこのような土の城は、戦うための城であり、自然の要害を利用しながら、どう作り、どう使うかが重要だと実感させてくれる城でもあります。
他にも、「杉山城問題」に関わる研究者たちの主張のまとめから、北条氏と山内上杉氏築城説それぞれの検証、杉山城と戦国前期に作られた城との比較、さらには同じ比企地方の城との比較など、杉山城づくしの論文と言えるほどの重厚感が味わえます。
杉山城を通して、戦国時代を見つめ直してみてはいかがでしょうか。
(編集部)
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