皆様、お寒うございます。戦国の城の極意を「虎の巻」よりはライトにお伝えする「ネコの巻」も、この年末で第10回目となりました。そこで今回は、主に山城を念頭において、戦国の城を歩くための極意を少々、皆様に伝授いたしましょう。
戦国の城歩きは冬こそ本番!
それにしても、なぜ師走どきにこんな話をするかというと…。
積雪地以外の地方では、冬こそが戦国の城歩きにもっとも適したシーズンだからなのです。えっ? だって、冬は寒いから城歩きはツラいでしょう? 春になって暖かくなってから城へ行けばいいんじゃないの?などとコタツにもぐっている、そこのあなた!
たしかに冬は寒いです。でも、暖かくなって活動しやすくなるのは、あなただけではありません。クマやヘビやムシ、そして植物たちも同じなのです。つまり、冬はクマやヘビやムシに煩わされずに城を歩けるシーズンなのです。
何より、下草が枯れているので歩きやすい!おまけに、木の葉も落ちているから、城からの眺望も楽しめます。夏場には草木が茂っていて、よく見えなかった城のまわりの景色も、冬ならたっぷり観察できます。味方のどの城と連絡が取り合えるか、敵軍が攻め寄せてきたら、どの距離でキャッチできるか。籠城している武将の気分で、想像してみましょう。
そうは言っても、やっぱり寒いし…。大丈夫!山城に登れば、すぐに体が温まりますよ(笑)。というわけで、冬の山城は寒いのですが、体を動かすとすぐに温まり、登り切って山頂の本丸で風に吹かれると、たちまち凍えます。なので、冬の山城歩きでは、暑さ寒さをこまめに調節できるような服装を、心がけるとよいでしょう。
切実なトイレ問題
尾籠な話で恐縮ですが、寒いとトイレが近くなりますね。でも、たいがいの城跡は登り口にトイレが設置されているくらいで、山城の上にはないのが普通です。城の周辺にまったくトイレがない!という場合も珍しくありませんね。
最近、僕が困ったのは安土城。安土城には、学生時代から何度か足を運んでいますが、最近は発掘調査に基づいた整備も進んでいます。滋賀方面に所要で出かけたついでに久しぶりに行ってみたのですが…何と城内にトイレがない!日本100名城に選ばれるなどして観光客も絶えない城だから、何とかなるだろうと楽観的に考えていたら、かなり苦しい思いをしました。
こんな惨劇をくり返さないために、事前にガイドブックやインターネットで、トイレ情報をチェックしておきましょう。そして、最寄りの駅、公衆トイレやコンビニなどで、出せるときに出せるだけ出しておくのです!
それから、個人差はありますが、寒いときにカフェインを摂取すると近くなります。体質的に自信のない人は、温かいコーヒーは下山するまで我慢しましょう。お弁当やおやつの時に飲むために、温かいお茶をマグボトルに入れて持って行くとよいのですが、僕はお茶もカフェインレスのものを選ぶようにしています。トイレ問題は、なかなか大きな声では語りにくいのですが、城歩きの現場では切実な問題なんですよね。
やってはいけない城歩きとは?
さて、そうして戦国の城へ行ったとします。山道を登ってゆくと案内板や説明板があって、ふむふむと読んで写真に撮り、次々に現れる堀や土塁に感心しながら、本丸にたどり着きます。一息ついて、「○○城址」の石碑を写真におさめ、ないしは自分もいっしょにおさまって、「やったー! ○○城攻略!」とツイートします。そして、本丸からの眺めを楽しんだら、登ってきた道を引き返して山を下り…。と、そんな城歩きをしていませんか?
この歩きかたでも、攻城スコアは増えます。でも、こんな歩きかたでは、戦国の城の本当の面白さはわかりません。なぜかというと、城とは敵を防ぐための施設だから。敵を防ぐための仕掛けとして大切なのは、堀や切岸、土塁などです。つまり、城で一番大切な要素、見どころは全部、内部ではなく側(ガワ)の方にあるのです。
なので、説明板を読みながら曲輪の中を突っ切って、次の曲輪へ進む、みたいな歩きかたをしていると、その城の一番おいしいところをゴッソリ、見落とすことになってしまいます。おまけに、今ある山道や遊歩道は、枡形虎口のような見どころをスルーして付けられているケースが、けっこう多いのです。
なぜかというと、城とは敵を防ぐための施設だから。つまり、本来の城道は、敵が入って来にくいように工夫してあるのです。ところが、敵が入って来にくい道は、山仕事の人やハイカーも歩きにくい。そこで、もともとの城道を無視して歩きやすい道を付けるのですが、そうした道に沿って歩いていると、枡形虎口のような見どころをスルーしてしまうのです。
曲輪の中を突っ切るのではなく縁を歩いてみれば、今の遊歩道とは別の所に、もともとの虎口があることも見落とさずに済みますね。一番いいのは、信頼できる縄張り図を見ながら、自分の現在位置を確認して歩くことでしょう。
もう一つ、戦国の城は使われなくなってから400年以上たっている、ということをお忘れなく。つまり、土塁は崩れ、堀は埋まっているのです。城によって事情は異なりますが、空堀は平均して人の背丈くらいは埋まっている場合がほとんど。つまり、今は浅く見えている空堀でも、戦国時代にはもっと深かった、ということ。
そして、堀底が深ければ、斜面の立ち上がりも今より急になります。戦国時代の城は、今見ているものよりも土塁がもう少し高く、堀はかなり深く鋭角に切れ込んでいた…そうイメージしながら城跡を歩いてみましょう。
さらに、土塁の上では城兵が弓や鉄砲を構えており…、ほら、なかなか難攻不落に思えてくるでしょう? こんな妄想も、城歩きを楽しむための大切なアイテムなのです。
それでは皆さん、次回お会いするまで、よい城歩きを!
[お知らせ]
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☆僕の関わる出版・イベント・お城ツアーなどの情報は、TEAMナワバリングのツイッター・フェイスブック・ブログにて発信中!
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【 戦国の城・ネコの巻 】連載一覧
第9回「菅谷館か菅谷城か」
第8回「戦国の城は丸坊主だった?」
第7回「櫓の話」
第6回「城の形はネコ耳をめざす?」
第5回「夏はゆるりと平城を」
第4回「本当は怖くない八王子城御主殿の滝」
第3回「天守って何だ!」
第2回「深大寺城どうでしょう?」
第1回「プロローグ」
【 城の本場は首都圏だった!? 】続100名城もあり!『首都圏発 戦国の城の歩きかた』が発売
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