「うらめしや~」といえば『四谷怪談』で、お岩さんが化けて出るときの有名なフレーズ。他にも、「いちまい、にまい・・・」とお皿を数えるお菊さんの『番町皿屋敷』や、魔除けのお札で知られる『牡丹灯籠』などの幽霊話・怪談は古くからあって、私たち日本人の生活にもなじみ深い。
幽霊は、ちょっとコワいけれども、どこか美しくて神秘的。そのイメージは江戸時代にたくさん描かれた「幽霊画」の影響が強く残っているからではないだろうか。そんな「幽霊画」の数々が一同に集められ、鑑賞できる展覧会が東京・上野で開催されている。その名も「うらめしや~、冥途のみやげ」展だ。
上野公園の北側にある「東京藝術大学大学美術館」は洗練されたモダンな建物だが、展示ホール内に入ると雰囲気が一変。薄暗くて、いつもと違う、ひんやりした空気が迎える。昔懐かしい蚊帳(かや)が垂れ下がっていて、その周りに幽霊画が一面に展示されている。
どれもこれも、ゾクゾクするような絵である。不気味なのだがその美しさ、見事な筆致に、ついつい見入ってしまう。幽霊さんと目が合ってしまう。幽霊といえば、女の幽霊が定番だが、男の幽霊の画もあって興味をそそられる。
歌川国芳《民谷伊右衛門 市川海老蔵・お岩亡霊 尾上菊五郎》天保7年(1836)大判錦絵(後期展示)
通常の日本画のほか、幽霊を題材にした浮世絵もある。円山応挙、歌川国芳、葛飾北斎、河鍋暁斎、月岡芳年といった有名な画家の作品もたくさん並んでおり、見飽きることがない。
これらの展示画は、幕末から明治にかけて活躍した落語家・三遊亭圓朝(さんゆうてい えんちょう=1839~1900)が所蔵していた幽霊画コレクションを中心に集めたものだそうだ。
圓朝といえば、落語家の元祖ともいえる存在。落語会では神様のように崇められている人だが、中でも怪談を得意としていた。現在伝わっている古典落語や、幽霊・怪談の基礎の多くは、この人が定着させたといっても過言ではない。会場には圓朝の遺品や著作も展示されていて、彼の人となりにも触れられる。
本イベントを企画された古田亮さん(東京藝術大学大学美術館 准教授)は、「怨念、心残りといった人間の底知れぬ感情が表現された、おどろおどろしい幽霊画を集めました。会場の雰囲気づくりにも工夫を凝らしたので、合わせて楽しんでいただければ」と話してくれた。まさに夏にぴったり、涼しくなれそうな展示会といえよう。講演会や能楽公演、ナイトミュージアムといったイベントも予定されているので、サイトをチェックしておきたい。
さて、ここで終わらないのが歴史コラムニストならではのレポート。幽霊画のコレクターでもあった三遊亭圓朝の墓は、会場から歩いて10分ぐらいの場所に位置する谷中の全生庵(ぜんしょうあん)にある。展覧会の前後には、庵をぜひとも訪ね、お参りするべきであろう。ということで取材の後、もちろん全生庵にも足を運んだ。炎天下、汗だくになって・・・。
全生庵と聞いて、ピンと来る歴史ファンは多いはず。そう、ここは山岡鉄舟(やまおか てっしゅう=1836~1888)が、戊辰戦争などで殉じた人々の菩提を弔うため、明治16年に建立したお寺なのだ。そして境内奥の墓地には、鉄舟と圓朝、両名の立派な墓が建っている。
鉄舟と圓朝は3歳違いで、ほぼ同世代の人物。明治維新の後、高橋泥舟(でいしゅう)を通じて知り合い、親交を結んでいたそうだ。圓朝は鉄舟から「禅」の心など多くを学んだそうで、圓朝の法名も生前に鉄舟が与えたという。圓朝は師であり兄のようでもあった鉄舟と同じ墓地に眠ることを望んだのは必然だったのだ。
寺のすぐ東側には谷中霊園が広がり、そこには鉄舟の主君でもあった15代将軍・徳川慶喜や、その息子・勝精(かつ くわし=勝海舟の養子)の墓がある。さすがにこの時期は暑いので無理には勧めないが、余力のある方はここも訪ね、墓の前で手を合わせてみてはいかがだろうか。
※「うらめしや~、冥途のみやげ」展の会場内は撮影禁止です。本ページの写真は広報用素材および事前のプレス内覧会にて撮影したものです。
「うらめしや~、冥途のみやげ」展 開催中!
2015年7月22日(水)~9月13日(日)
※月曜休館 ※会期中、展示替えあり
会場/東京藝術大学大学美術館 地下2階展示室
公式サイト http://www.tokyo-np.co.jp/event/urameshiya/
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上永哲矢(うえなが てつや) 通称:哲舟。歴史コラムニスト、フリーライター。
『時空旅人』『歴史人』などの雑誌・ムックに、歴史や旅の記事・コラムを連載。
三国志のほか、日本の戦国時代や幕末などを得意分野とする。
イベント・講演にも出演多数。神奈川県横浜市出身。
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